相続が発生したときに気になることといえば、相続税の支払いが必要なのかどうかではないでしょうか?
相続税の申告期限は相続が発生した日から10ヶ月以内ですので、手際よく遺産の内容を把握しなければなりません。
そのために、ぜひ作成していただきたいものが「財産目録」です。
財産目録を作成することで全体像が把握できることと、相続人間での話し合い(遺産分割協議)のときに大いに役立ちます。
そこで第4回は「財産目録の作成」について解説します。
なぜ財産目録の作成が必要なのか、作成の手順、作成方法など分かりやすくしていますのでぜひ参考にしてください。
財産目録とは?その目的と重要性
財産目録とは故人の財産を一覧表にしたものです。
財産にはプラスの財産とマイナスの財産がありますので、それら全てを記載します。
これにより、相続人が全体の状況を明確に理解することができるとともに、分割方法や相続税対策を考える基礎資料となります。
また、相続人で遺産分割協議をスムーズに進めるための土台が整えられ、相続人間での認識の相違を防ぐことにもなるため大変有効な資料であるといえます。
なお、遺言執行者が定められていない限り、財産目録の作成は義務ではありません。
そのため相続人が自分一人であるときなどは作成しなくても問題にはなりません。
財産目録の作成手順と必要な書類
ここからは具体的な作成方法をみていきましょう。
できれば、パソコンを使ってエクセルやスプレッドシートなどに落とし込んでください。
大項目として以下の4つに分類して整理していきます。
①金融資産
②不動産
③動産
④負債
金融資産とは銀行などに預けている預貯金をはじめ、証券会社口座にある株式、投資信託の他、故人が加入していた保険も入ります。
不動産は土地、建物はもちろん、土地を借りている場合は借地権という権利も財産となります。
動産についてはどこまでの範囲を含めるのか難しいところですが、第三者からみても財産価値があるものを記載します。
代表的なものが車、貴金属、絵画です。一方、テレビ、冷蔵庫などの生活家電、衣服などは記載する必要はないでしょう。
それでは各項目について、確認方法や記載するべきポイントを詳しくみていきます。
金融資産の確認方法とリスト化
大項目:金融資産についても、以下の4つに分類して整理していくといいでしょう。
①現金
②預貯金(銀行、信金)
③有価証券(証券会社、銀行)
④保険
①現金については、故人のお財布やタンス預金として自宅に保管していたものが該当します。
また、相続人など身近な人が通帳を管理していて、故人が亡くなる直前に入院費の支払いやお葬式代にあてるために引き出したお金があれば、それも現金としてカウントしておくのがいいでしょう。
②預貯金は、通帳が確認できればいいのですが、通帳が無い(発行省略)していることもあります。
そのため、クレジットカードや郵送物などから取引のあった金融機関がないかどうか調べることも必要です。
もし思い当たる金融機関があれば、相続人であることが分かる資料を持って窓口に行けば故人の口座の有無を確認することもできます。
また、残高は故人が亡くなった日の金額を記載するのがベストですが、近い日にちであればそれでもいいでしょう。
あまりこだわって作成が進まないことより、全体像を把握することを優先してください。
なお、故人が亡くなった後に通帳記帳はできないと思い込んでいる方もいますが、そんなことはありません。
金融機関に自分から死亡の連絡をしない限り口座がストップすることはありません。
ここまでをまとめるとこんな感じの一覧表になります。
③有価証券はNISA制度が普及してきたこともあって、多くの方が口座開設しているのではないでしょうか。
証券会社はもちろん、銀行でも口座を持てるため幅広く調査が必要です。
有価証券の場合、取引報告書を確認しましょう。
取引の都度発行されるものや、毎年発行されるものがありますが、いずれも自宅に郵送で届きます。
これらの書類から、まずは取引先の金融機関を確認します。
その後、金融機関に照会すれば保有株式、投資信託などを把握することができます。
なお、証券保管振替機構に開示請求を行うことで、故人がどこの金融機関で株式を保有しているのか調べることもできます。
これらの調査結果を一覧表にまとめることになりますが、まずは上記の一覧と同様に金融機関ごとの残高を記載することで進めましょう。
遺産分割協議の段階では株式や投資信託ごとに評価を出してそれぞれを分配数を決めることになりますが、現段階では全体像の把握が目的のため、金融機関ごとの残高を入れることでOKです。
(残高は気づいた日時点の株価終値、投資信託の価格としておきます)
④保険は、生命保険、医療保険を確認します。
生命保険とは、加入している人が死亡したことを原因として、相続人など第三者がお金を受け取るタイプの保険です。
また、故人が死亡直前に入院していたため、入院給付金が請求できる保険が医療保険です。
特に生命保険では受取人が誰かによって相続税の計算に大きな影響があるため、下記のように受取人が分かるようにしてリスト作成すると良いでしょう。
なお、生命保険契約照会制度を利用することで、故人が加入している生命保険があるかどうか調査することができます。
通帳の中で保険料の引き去りがあることは確認できているけど、肝心の保険証券などが見当たらない、という場合など、加入している可能性が高いと思われるときにはぜひ利用してみてください。
不動産の調査と記載方法
故人が所有している不動産の確認は、まずは毎年届いている「固定資産税・都市計画税納税通知書」を探します。
他には、金庫に不動産の権利証・登記識別情報通知によっても所有不動産の確認ができます。
次に、これらの書類を参考に法務局で登記事項証明書を取得しましょう。
登記事項証明書には所有者の住所、氏名が記載されていますので、故人が所有者であったことが確認できます。
財産目録は「固定資産税・都市計画税納税通知書」と「登記事項証明書」を参考に作成します。
あまり多くの項目を入れると複雑になってしまうので、こんな感じでいいと思います。
土地と建物は別不動産のため、故人は自宅しか不動産を持っていない場合でも、建物1つ、土地1つ(または2つ、3つ)と、不動産は複数である可能性があります。
マンションも同様に、建物と土地は別不動産です。
これらを意識しながら財産目録を作成してみてください。
また、評価額の項目には、とりあえず「固定資産税・都市計画税納税通知書」に記載された評価額を入れることでいいでしょう。
全体像の把握が目的ですので、手元にある資料から読み取れる範囲でどんどん進めてください。
なお、「固定資産税・都市計画税納税通知書」を探しても見当たらないことも少なくありません。
そんなときは「名寄帳」を取得しましょう。
相続人であれば誰でも故人に代わって取得することができます。
横浜市なら不動産の所在する区の区役所で「土地・家屋総合名寄帳登録事項証明書」を取得して確認してみてください。
動産、負債や借入金の確認
動産の中で多いのが車・バイクです。
評価額を調べる方法は中古車買取の査定をお願いするのがいいでしょう。
それ以外の動産については「生活家財一式」として計上するケースが多いようで、部屋の広さ(家財の量)によって異なりますが、10-50万と入れておけばOKです。
個人事業主の方を除いて、借入金で最も多いのは住宅ローンではないかと思います。
故人が住宅ローンを組んで返済をしているなら、借入残高が借入金となります。
ただし、団体信用生命保険(通称:だんしん)に加入している場合は死亡と同時に借入残高が0円になるため、借入金も0円です。
団体信用生命保険に加入しているか分からない場合には住宅ローン返済をしている金融機関に確認してみてください。
また、お葬式にかかった費用等についても負債として記載して問題ありません。
なお、借入金に限りませんが、金融機関等から送られてくる郵送物は故人の財産を調べる大切な手掛かりになるということは覚えておきましょう。
財産目録を作成する際の注意点
ここでもう1度、財産目録を作成する目的を確認します。
故人の財産の全体像の把握して
①相続税の申告が必要かどうか確認する
②相続人間の認識を合わせて、遺産分割の基礎資料とする
ことです。
①については、申告が不要と思っていたが、大きな財産の漏れがあって、実は申告が必要だった、ということがあります。
私が経験したケースでは、サラリーマンの方が亡くなり、相続人は親、大した財産はないということでしたので通帳等を確認しました。
不動産も自宅マンションだけなので、確かに通帳と自宅マンションであれば相続税申告は必要なさそうです。
しかし、故人が社内積立をしていたことが後日分かって、大きな積立金が相続財産として計上されました。
勤務先によっては財形貯蓄制度、社内積立、持株会など、福利厚生として様々な「通帳に出てこない貯蓄制度」があります。
これらは年末調整や源泉徴収票を見ただけでは把握できず、給与明細を見れば把握できたかもしれません。
または、年に1度はお知らせが届いていることもありますので、やはりここでも郵便物を確認することが大切だといえます。
②については、疑わしき財産は全て目録に載せる、根拠のある数字を入れる、ということを念頭に作成してもらうのがいいでしょう。
特に、相続人が複数いる場合で特定の人が作成した財産目録が疑わしいと思われてしまうと、その後の遺産分割は難航します。
また、残高0円の口座があった場合にそれを財産目録に記載するべきでしょうか?
不動産の評価額を記載するとき、固定資産税の評価額ではなく、不動産会社に依頼した査定書の金額を入れる方が良いでしょうか?
公平性・公正性を意識して作成するならば、残高0円の口座も記載すべきで、不動産の評価額は特定の不動産会社の査定金額ではなく、固定資産税の評価額を入れておきましょう。
なお、財産目録を作成している途中で相続税申告が必要であることが判明した場合は、速やかに税理士に相談することをおすすめします。
目録作成に時間がかかり、申告期限に間に合わなくなってしまっては本末転倒です。
行政書士に依頼するメリット
財産目録に記載すべき注意事項でお伝えした2点が行政書士に依頼することのメリットだといえます。
①すべての財産と負債を網羅できます
多くの経験値がありますので、どんな財産をどんな方法で調べればいいのか熟知しています。
特定の相続人が自分で財産調査を行うよりも、専門家が行った調査結果ということであれば他の相続人も納得できるのではないでしょうか。
②公平性・公正性が担保される
行政書士が特定の相続人のために業務を進めるわけではありません。故人の財産を正しく把握するために調査を行います。
特に値動きのある財産(株式、投資信託、不動産)の評価額をどのようで算出するのかは、相続人間で対立しやすい問題です。
第三者に依頼することによって相続人間で無用な争いや疑念が生まれず、スムーズな遺産分割協議につながることが最大のメリットといえるでしょう。