【不動産購入の盲点】買付(購入申込書)は早い者勝ち?提出順・条件交渉・業者の思惑を徹底解説
行政書士・ファイナンシャルプランナーの相澤和久です、

中古マンションの購入は“早い者勝ち”のように見えます。
「買付(購入申込書)を早く出したほうが優先される」と言われることも多く、焦って申し込みをしてしまう方も少なくありません。

しかし、実際の不動産取引はもっと複雑で、提出順だけで優先順位が決まるとは限らないのが実情です。

この記事では、買付に関する慣習や例外、不動産業者の事情まで含めて、“知っておくと損をしない”買付の真実をわかりやすく解説します。

「買付は早い者勝ち」は本当?

基本的に中古物件は一点モノ。

新築のように抽選や先着順の明記はなく、「早く買付を出した人が優先される」という業界慣習があります。

ただしこれはあくまで慣習であり、法律で決まっているわけではありません。

実際には、次のようなケースでは後出しの買付が優先されることもあります。

価格・条件によって優先順位が逆転することも

例えば、最初に買付を出したお客様は若干の価格交渉を希望しています。
価格交渉自体は珍しいことでも、悪いことでもありません。

その後に2番手として買付を出したお客様は満額で買いたいという希望だった場合はどちらを優先すべきでしょうか?
  • 1番手:少し値引きを希望(3,000万円 → 2,950万円)
  • 2番手:満額(3,000万円)で即決
このような場合、売主にとって魅力的なのは2番手です。
当然、売主としては値引きしたくありませんので、2番手の方に売りたいと思うことでしょう。

では、1番手の方は現金払いのため1週間後には売買代金全額を支払ってもらえるとして、2番手は住宅ローンを組むため支払いは2か月後、という条件であったら、どうでしょう?
  • 1番手:現金一括で1週間後に決済可能
  • 2番手:ローン利用で2ヶ月後に決済予定
50万の値引きをしてサッと売るのか、ローンのリスクはあるが満額で売るのか、悩ましいところです。

こういったケースは売主に両方の条件を比較してもらい、どちらを優先するか決めてもらうことになるでしょう。

つまり、買付の“順番”より“内容”のほうが重視されるケースは多いということです。

買付は「意思表示」にすぎない。法的拘束力はない

そもそも買付(購入申込書)には、法的な拘束力はありません。

買いたいという意思を表明したに過ぎないため、契約前に気が変わって購入申込を取り下げてもペナルティは発生しません。

売主から見ても、満額の買付が入ったからといって売らなければならないわけではありません。
売却自体を取りやめてもいいのです。

これは一見ルールが曖昧に見えますが、だからこそ不動産業者の交通整理が重要になるのです。

実は不動産業者が優先順位を決めている

個々の取引においては不動産業者が主導して取引を進めるため、買付をどのように扱うのかはその不動産業者次第です。
また、買付が複数重なったとき、誰を優先するかを整理するのかも不動産業者の役割になります。

対応スタイルは業者によって異なる

  • 1番手の交渉中は、内見や2番手以降の買付を断る業者
  • 複数買付を同時に受け付け、判断は売主に任せる業者
買付が入った段階で販売活動を中断する(内見を断る)不動産業者もあります。
たとえそれが価格交渉のある買付であっても、まずは手を挙げてくれた買主のために売主と交渉する、というスタンスです。

交渉の結果が出るまで内見を断っているため、2番手から満額で買付が入ることはありません。
そのため、1番に手を挙げた人にはありがたい話です。

一方、売主からみれば1番手の価格交渉の結論を出さない限り、次の買い手を紹介してもらえないため不利に感じることでしょう。

とはいえ、買付が重なって入ったときに交通整理がしきれず、全部の買付がキャンセルになってしまうということもあり得ますので、2番手以降の買付を受け付けないという戦略も悪いわけではありません。

このあたりの考え方が不動産業者によって異なりますので、買付に対する優先順位の決め方などを不動産業者に確認しておくと良いでしょう。

「物元」と「客付け」の違いが取引を左右する

不動産業界には「物元(ぶつもと)」と「客付け(きゃくづけ)」という役割があります。

両者の違いとは?

区分
内容
仲介手数料の受け取り
物元売主側を担当する不動産会社売主から受け取る
客付け買主側を担当する不動産会社買主から受け取る
両者の違い
不動産取引の形態は2パターンあります。
1つ目が片手(かたて)取引、共同仲介という言い方をするときもあります。

買主、売主にそれぞれ不動産業者が付いていて、売主側の不動産業者は売主から、買主側の不動産業者は買主から仲介手数料をもらうこと(片方)から、片手仲介といいます。

2つ目が両手(りょうて)取引です。

下図のような形になります。不動産業者は物元でもあり、客付けでもあります。
なぜ両手というか、分かりますよね?

買主、売主双方から仲介手数料が入るから、両手、というわけです。

両手取引は業者にとって収益が倍になります。

もしあなたが不動産業者の経営者だとしたら、どちらの取引を優先しますか?

優先されるのはどっちの買付?

片手、両手、という言い方は、物元の不動産業者からみた言い方であることに気づきましたでしょうか?

上図のように、物元(赤い仲介)の不動産業者が自社で買主を見つければ両手(図の左)、他の不動産業者が買主を連れてきたら(図の右)片手です。

物元不動産業者からみれば、客付け不動産業者と契約を進めるのは、収益が半分になってしまうという見方もできます。

となれば、当然ながら自社の買付を優先したくなるのが本音です。

つまり、あなたが親切な担当者にお願いしていても、その担当者が「客付け」なら、他社の“物元”に買付を負けてしまうリスクがあるということです。

客付け不動産業者の購入条件と、物元不動産業者の購入条件が同一であれば、間違いなく物元不動産業者の買付が優先されます。

購入希望価格に差があっても、物元不動産業者は双方から仲介手数料をもらえることを考えれば、自社の買付を優先すると思ってください。
(価格差の分だけ売主の仲介手数料値引きしても両手取引によるメリットが上回ることもあります)

なお、仲介手数料については別のコラムで詳しく解説していますので、気になる方はこちらもチェックしてみてください。

物件を「買い逃さない」ためのポイント

ここまでの話をふまえると、中古マンション購入では次の点が重要になります。

ポイント①:買付を出す前に「条件の見直し」を

  • 値引き交渉をしない方が優先されやすい
  • ローン審査が通っている(または現金購入)と強い
  • 決済時期が早いと売主に喜ばれる
当たり前のことですが、売主の希望条件に沿った買付が優先されます。

ポイント②:「物元業者」を見極める

物件の掲載元・内見の対応者が物元業者かどうかを確認することがカギです。

「親切な担当者」や「知人の紹介業者」が、必ずしもあなたの取引にとって最善とは限らないのです。

見分け方がわからない場合は、第三者に相談するのもひとつの手です。

まとめ:買付に勝つには「情報」と「順序」の理解が不可欠

まとめ
中古マンション購入はスピードが重要ですが、本当に大事なのは“順番”ではなく“条件”と“立場”です。

以下の点を意識しましょう:
  • 買付の順番だけでは優先されない
  • 不動産会社の立場(物元 or 客付け)で優先順位は変わる
  • 仲介会社の収益構造が影響することもある
  • 慣習と現実のギャップを理解しておくと強い
「知り合いの不動産業者がいるので、その人を窓口にして探しています。」

「最初に問い合わせた不動産業者の人が親切で、その後の物件を紹介してくれるのでその人に任せています」

ものすごく残念ですが、このような探し方をされている方は客付け不動産業者を窓口にしていることが多いです。

物元不動産業者につながることが不動産取引を有利に進めるためのポイントであることは忘れないでください。

不動産購入で損をしないために「中立の専門家」に相談しよう

当事務所は、物元でも客付けでもない取引に関係のない第三者のファイナンシャルプランナーです。

中古マンション購入における買付戦略や契約条件のチェックをサポートしています。

「どうやって物元を見分ければいい?」「この条件は優先されやすい?」といったご相談も歓迎です。