【初心者ガイド】相続手続きの全ステップを解説~第6回(最終回)遺産の分配~
相続の最大の山場である遺産分割協議が終われば、あとは遺産を分配すれば相続手続きは完了です。
遺産の分配とは、具体的には金融機関の相続手続きや不動産の相続登記を行うことを言います。

相続に関する手続きは厳密に規定されていることもあって、「とてもややこしいもの」という先入観を持たれている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

そこで、第6回遺産の分配では、遺産を分配する流れや必要書類、金融機関の相続手続き等ついて分かりやすく解説します。

ぜひ参考にしてください。

遺産の分配の流れ

遺産の分配の進め方は大きく2つの方法があります。

一つは、代表の相続人に遺産を集約させて、まとまったら各相続人に分配する方法です。

例えば、3つの金融機関の預貯金を3等分する場合、全ての金融機関の口座を解約してAさんが受け取ります。
その後、Aさんから、相続人Bさん・Cさんに送金します。

2つ目は、相続手続きの段階で各相続人が受け取る方法です。
先ほどの例でいえば、3つの金融機関それぞれの手続きにおいて、解約時に3等分した金額をABCそれぞれの口座に送金することになります。

どちらで進めても大きな違いはありません。

ただ、一つ目の方法で進める場合は相続専用に口座を作成することをおすすめします。
代表相続人の個人財産と相続財産が混在しないようにすることで、あらぬ疑いを持たれないように進めるとよいでしょう。

各相続人に分配が終われば、相続手続きは完了です。

なお、通帳を見れば分配した記録が残されていますので、分配が終わったことについて書面を作成する必要はありません。

必要な書類は?金融機関ごとに確認しよう

一般的に相続に必要な書類は次の通りです。

<遺産分割協議書がある場合>
・遺産分割協議書
・亡くなった人及び相続人であることが分かる戸籍謄本一式(※)
・相続人全員の印鑑証明書(発行から6か月以内)

<遺言書がある場合>
・遺言書
・亡くなった人の戸籍謄本
・遺言で財産をもらい受ける人の印鑑証明書(発行から6か月以内)

<遺産分割協議書も遺言書もない場合>
・亡くなった人及び相続人であることが分かる戸籍謄本一式(※)
・相続人全員の印鑑証明書(発行から6か月以内)

<代理人が請求する場合>
・上記の書類
・委任状
・代理人の印鑑証明書(発行から6か月以内)

金融機関によって印鑑証明書の有効期間が異なることや、必要な書類が多少異なりますので事前に確認することをおすすめします。

初めて手続きをされる方にとって負担が大きいのが、(※)で記載した戸籍謄本一式を準備することではないでしょうか。
ここで少し詳しくご説明します。

被相続人及び相続人であることが分かる戸籍謄本一式

相続手続きの中で、亡くなった人の出生から死亡までの全期間連続した戸籍謄本が必要になります。
戸籍謄本とは、戸籍内の全員の内容を複写したものであり、市役所(町村役場)で取得可能です。

戸籍が転籍されている場合は転籍前のもの、改製が行われている改製前の戸籍が必要になるため、人によって必要な通数は異なります。
名称内容
戸籍謄本戸籍内の全員が記載されたもの
(戸籍抄本は、そのうちの一部のみ記載)
全部事項証明書戸籍がコンピューター化されている自治体では戸籍謄本を「全部事項証明書」といいます
改製原戸籍謄本
かいせいげんこせき
かいせいはらこせき
法改正により戸籍の様式が変更された際、改製前の戸籍謄本をいいます
除籍謄本戸籍内の全員が抜けた状態の戸籍謄本を「除籍謄本」といいます
除籍全部事項証明書コンピュータ化済みの自治体では「除籍全部事項証明書」といいます
なお、戸籍の改製は何度か行われていることにご注意ください。
改製年代必要戸籍
明治19年改製改製前の戸籍
明治31年改製改製前の戸籍
大正4年改製改製前の戸籍
昭和32年改製全ての戸籍が新しくなっています
平成6年改製コンピュータ化されています
現在現在の戸籍
例えば、昭和18年生まれの方が亡くなった場合、最低でも3通の戸籍謄本が必要です。
①生まれたときの戸籍(大正4年の改製原戸籍謄本)
②昭和32年の改製原戸籍謄本
③平成6年の改製原戸籍謄本

また、平成3年生まれの方が亡くなった場合、最低でも2通の戸籍謄本が必要となります。
①生まれたときの戸籍(昭和32年の改製原戸籍謄本)
②平成6年の改製原戸籍謄本

改製以外でにも、婚姻、転籍等によって戸籍が新しくなっている場合には、新しくなる前の戸籍謄本が必要になることにご注意ください。

これらの戸籍を全て揃えることは大きな負担でしたが、令和6年3月1日から、「戸籍証明書等の広域交付」が始まり、最寄りの自治体の窓口に行けば、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍を一括して取得することができるようになりました。

一部の例外がありますが、戸籍を読み込んで各自治体に請求せずとも、最寄りの自治体で全ての戸籍が揃えられるようになったことで負担が大きく減りました。

なお、相続人の戸籍は現在のものだけで足りますが、取得日は被相続人の死亡日以降の日付のものが必要になることにご注意ください。

不動産の分配(相続登記の手続き)は?

不動産の相続手続きは、主に登記に関する手続きになります。
一般的には、不動産は亡くなった人に名義になっているため、相続で不動産を引き継ぐ相続人に名義変更します。

これを相続登記といいます。

相続登記に必要な書類も、さきほど確認した金融機関の必要書類とほぼ同じです。
追加で準備するものとしては、亡くなった人の住民票(除票)と相続で不動産を引き継ぐ人の住民票です。

また、相続登記は金融機関の手続きとは異なり、遺産分割協議書(または遺言書)が必須です。
そのため、遺産分割協議が整わない限り相続登記を申請することができません。

遺産分割協議が長引くことによって長期間空き家となってしまうとその間の管理の負担は少なくありませんので、やはり遺産分割協議は早期に決着をつけたいものです。

なお、令和6年4月より相続登記を行うことが義務化されました。
遺産分割協議がまとまったときから3年以内に登記をする必要があることにご注意ください。

ちなみに、遺産分割協議によって不動産を売却してお金で分配する方法、つまり換価分割を行うことにした場合は相続登記だけでは分配が終わりません。

換価分割による分配

相続登記が終わったら、不動産の売却手続きを進めることになります。
一般的には、不動産の売却は仲介会社に依頼します。

不動産の売却手続きは相続登記によって不動産の名義人になった相続人が窓口になって進めることになります。

そのため、相続人3名全員が持分3分の1づつ取得した相続登記をしていれば、仲介会社との手続き(媒介契約)は3名全員の署名押印が必要になるということです。

不動産の売買契約書、重要事項説明書等の売却時の書類も全て3名全員の署名押印が必要です。

そして、売却が決まったら買主名義に登記申請をします。
登記の書類として3名全員の印鑑証明書が必要になることや、本人確認として司法書士との面談が求められることもあります。

これらの手間を考えると、遺産分割協議を行う段階で換価分割の手続きは代表相続人1名に任せることとして、相続登記は1名にまとめる方が負担が少ないと言えます。

不動産売却の手間も考慮して遺産分割協議を進めるとよいでしょう。

なお、不動産の売却については相続税とは別に税金がかかります。

ここで詳細な説明はしませんが、亡くなった人が買った時の金額より高く売れた場合に、儲かった金額の約20%を税金として納めることが必要です。

もし、換価分割を行うために相続登記を代表相続人1名の名義にまとめてしまうと、その人が全額税金を負担しなくてはならないと思われるかもしれませんが、そうではありません。

登記や売買契約書では売主が代表相続人1名となっておりますが、換価分割によって売却代金を受け取った相続人3名がそれぞれ確定申告をして、受け取ったお金(売却代金の3分の1)を申告します。

その証明書類が遺産分割協議書となりますので、遺産分割協議書は大事に保管しておきましょう。

金融資産の分配(金融機関の相続手続き)は?

金融機関の相続手続きとは口座を解約して相続人の口座に送金・移管することです。

金融機関ごとに必要書類・書類の有効期間、手続きができる人などが異なりますので、事前に確認しながら進めることになります。

金融機関はそれぞれ別会社のため申請書類が異なることはもちろん、添付書類も若干の違いがあります。
また、金融機関の支店によっても対応が変わるため、別の支店では手続きができたのにこちらの支店ではできない、ということがあります。

そういうこともあるんだ、という心づもりで事前確認をするとよいでしょう。

銀行口座の解約手続き

銀行の解約手続きの大まかな流れは下記の通りです。

①支店または相続センターに問い合わせをする

口座名義人が亡くなったことを伝えましょう。電話またはWEBサイトで手続きを進めることができる銀行もあります。
連絡を入れると手続きに必要な書類を送ってもらえます。

連絡を入れて書類が届くまでは1-2週間、長いと3週間くらいかかることもあります。

②必要書類を郵送する(または最寄りの支店に持参する)

口座解約の申請書及び必要書類を揃えて郵送します。
銀行によっては郵送では受け付けておらず、最寄りの支店に持参しなければならないこともあります。

その際は事前に来店予約が必要となり、混雑していると最短で1か月先の予約しか取れないことも少なくありません。

③送金手続きが完了(解約手続き完了)

口座の解約申請書に記載した受け取り口座にお金が入金されたら、手続きは完了です。

手続きのスピードは銀行によって異なりますが、概ね2週間から1か月以内には入金となります。


このように、手続き自体は難しいものではありません。
それでもみなさまが苦労される点がいくつかあるようで、実際に聞いた苦労話を箇条書きでご紹介します。

・必要書類は全て原本を提出しなければならなず、1通を使いまわしたため時間がかかった
・書類の記入方法を電話で問い合わせたけど、すぐに繋がらず待たされる時間が長くストレスを感じた
・支店では相続手続きに詳しい人がいないため本部に確認してから返事をする、と言われて時間がかかった
・書類のチェックをその場では行ってくれず、後日不備があったと連絡がきて再度来店することになった
・手続きが適正に進んでいるのかどうかはこちらから問い合わせないと分からないので不安だった

なお、書類に不備があると手続きがストップしてしまうことや、手続き完了から●●営業日以内に入金されます、という正確なスケジュールで手続きが進まないため、亡くなった人の口座のお金をあてにしている場合はかなり余裕を持ったスケジュールを組むとよいでしょう。

証券口座の解約手続き

証券口座の解約の流れは銀行とほぼ同じです。

解約手続きで事前に確認しておきたいのは株式の受け取り方法についてです。

同じ証券会社の口座間でしか受け取りができないのか、株式を売却してお金(売却代金)として受け取れるのか等、証券会社によって取り扱いが異なります。

もし、同じ証券会社に口座を開設しなければならない場合は、株式を受け取る相続人全員の口座が必要になってしまいます。

わざわざ普段は使わない証券会社に口座を開設することが手間だ、と思えば、遺産分割協議の中で株式は特定の相続人1名が受け取ることにしておくとよいでしょう。

また、銀行の解約手続きを進める上では遺産分割協議書がなくても問題ありませんが、証券会社の手続きでは必須です。

遺産分割協議書の文言によっては手続きができないことや、追加書類を求められることは少なくありませんので、証券会社の手続きは特に事前確認が重要となります。

専門家に依頼することでスムーズに進める方法

金融機関は、相続=紛争になる可能性が高いイベントが発生した、という見方をしています。
遺言が残されていても、後日相続人から遺言が無効であるという申し立てがなされることも珍しくありません。

もし亡くなった人のお金を相続の権利が無い人に送金してしまうと、相続人から銀行が責任を問われることになります。

そのため、相続手続きにおいては普段の手続きよりもより慎重になっているということを、手続きをする私たちが理解しておくことが重要です。

なぜここまで細かいことを聞かれるのだろうか?
原本を確認する必要が本当にあるのだろうか?
書類の些末なところまで訂正するのに、本当に全員の訂正印が必要なのか?

というような疑問は、相続手続きをした方なら誰もは経験することです。

もし、これらの手続きに不安があるようであれば、ぜひ私たち専門家にご相談ください。

多くの相続手続きを行った経験から、お客様に代わってスムーズに手続きを行うことができます。

ネットで相続発生の連絡を入れること、書類の記入方法の電話を待たされることも、窓口で書類不足を指摘されて再度役所に行くことも、すべて不要です。

私たちがお客様に代わって、必要書類の収集、銀行口座の解約など全ての手続きを行います。

「相続手続きの全ステップを解説(全6回)」を読んで、相続の流れは分かったけど手続き自体は難しそうだ、と感じた方はぜひご相談ください。