相続手続きを進める際に、最も重要なのが相続人の確認です。
誰が相続人になるのかを正確に把握しなければ、遺産分割の手続きが進まないだけでなく、トラブルの原因にもなります。
第3回「相続人の確認」では、相続人を特定するための基本的なルールや手続き、必要な書類についてわかりやすく解説します。
初めて相続手続きを進める方でもスムーズに取り組める内容をお届けします。
相続人とは?その範囲と定義
相続人とは、故人がのこした財産や負債を受け継ぐ権利、義務がある人を指します。
誰が相続人となるのかは法律で決められており、配偶者、子、親、兄弟姉妹が相続人となります。
(これらの人を法定相続人と言います)
また、相続手続きの中で「受遺者」という立場の人が出てくることもあります。
受遺者とは、遺言書において財産を譲り受けることを指定された人のことです。
相続人である場合もありますが、相続人ではない第三者が受遺者となることもあります。
・相続人=法律を根拠として、財産を受け取る権利を有する人
・受遺者=遺言を根拠として、財産を受け取る権利を有する人
と覚えておきましょう。
なお、内縁の配偶者や同性のパートナーは法定相続人には該当しないため、相続人になることができません。
そのため、法定相続人以外の人に財産をのこしたい場合が遺言で受遺者に指定することが必要です。
法定相続人の優先順位と法定相続分
法律で決められた相続人を法定相続人と言います。
法定相続人は①配偶者、②子ども、③親、④兄弟姉妹、と決められています。
優先順位
①配偶者は常に相続人となります(民法890条)
②子がいれば、子は最優先で相続人になります(民法887条)
③子がいない場合、父母が相続人となります(民法889条1項1号)。父母がいない場合で祖父母がいれば、祖父母が相続人となります。
④子、父母(祖父母)もいない場合、兄弟姉妹が相続人になります(民法889条1項2号)
配偶者と子、配偶者と父母、配偶者と兄弟姉妹、という相続人の組み合わせはありますが、子と父母、子と兄弟姉妹、という相続人の組み合わせはありません。
また、子、父母、兄弟姉妹が複数いれば、その全員が相続人になります。
法定相続分
法定相続分とは法律によって決められた相続分のことです。
同順位者が複数いる場合は等分で分けることになります。
例えば、子が3名いれば、それぞれ3分の1が法定相続分です。
一方、配偶者が相続人となる場合、組み合わせによって相続分が異なります。
相続人 | 法定相続分 |
配偶者のみ | 全部 |
配偶者と子 | 配偶者:4分の1 子:2分の1 |
配偶者と父母(直系尊属) | 配偶者:3分の2 父母:3分の1 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者:4分の3 兄弟姉妹:4分の1 |
また、兄弟姉妹が相続人となる場合、全血か半血かによって相続分が異なります。
(父母の一方のみが同じ兄弟を半血、父母双方が同じ兄弟を全血といいます)
半血兄弟の相続分は全血兄弟の相続分の2分の1となることに気をつけてください。
相続人 | 法定相続分(各人の相続分) |
全血の兄弟姉妹のみ又は半血の兄弟姉妹のみ | 1/兄弟姉妹数 |
全血と半血の兄弟姉妹 | 全血兄弟姉妹:2÷(2×全血数+半血数) 半血兄弟姉妹:1÷(2×全血数+半血数) |
もし、相続人が兄弟姉妹のみ、全血が5人、半血が1人の場合の各人の相続分を上記数式に当てはめると、下記の通りです。
全血兄弟姉妹:2÷(2×5+1)=11分の2
半血兄弟姉妹:1÷(2×5+1)=11分の1
全血兄弟は5人それぞれ11分の2、半血兄弟は11分の1、合計して11分の11になります。
もし配偶者と兄弟姉妹(半血及び全血)の相続であれば、上記に兄弟姉妹の相続分である4分の1を掛け算すれば、個々の法定相続分が算出できます。
相続人の調査に必要な書類
相続人は故人の戸籍をみて確認します。
戸籍をみる、ということで最も新しい戸籍をみれば相続人が確認できると思われている方もいますが、それだけでは分かりません。
戸籍はこれまで法律によって何度か変更され、それに伴って新しい様式に改製されてきました。
改製の時点で婚姻した人やすでに死亡している人は新しい様式の戸籍には書き写されないことから、改製後の戸籍をみただけでは改製前の事実関係が分からないようになっています。
そのため、故人の「出生から死亡までの全ての戸籍」が必要になります。
なお、相続人となる人の戸籍は存命が確認できるために現在の戸籍があれば足ります。
この説明だけでは分かりづらいと思いますので、相続人の組み合わせによってどこまでの戸籍が必要になるのか具体的にみていきましょう。
配偶者と子の必要な戸籍の範囲
A(故人):出生から死亡までの戸籍
B(配偶者):現在の戸籍
CDE(子):現在の戸籍
配偶者と父母の必要な戸籍の範囲
A(故人):出生から死亡までの戸籍
B(配偶者):現在の戸籍
CD(父母):現在の戸籍
配偶者と兄弟姉妹の必要な戸籍の範囲
A(故人):出生から死亡までの戸籍
B(配偶者):現在の戸籍
C(父):出生から死亡までの戸籍
D(母):出生から死亡までの戸籍
EF(兄弟姉妹):現在の戸籍
なお、不動産の相続登記や預貯金の解約手続きの際にはこれら戸籍の他に住民票も必要となります。
役所に行く際には合わせて取得しておきましょう。
代襲相続とは?特別なケースの相続人確認
法定相続人と優先順位のおさらいです。
①配偶者は常に相続人になる。
②第1順位は子
③第2順位は親(祖父母)
④第3順位が兄弟姉妹
このうち、②④の人が故人より先に亡くなっていた場合、②④の子が相続人となります。
故人からみると、②は孫・ひ孫、④は甥、姪にあたります。
これを代襲相続といいます。
代襲相続で気を付けるべきポイントは以下の通りです。
・相続放棄は代襲相続とならない。相続放棄した人の子が相続人となることはない。
・子の場合は再代襲相続があるが、兄弟姉妹は代襲相続のみで再代襲相続はない。
・代襲相続人(②④の子)の相続分は被代襲相続人(②④の人)と同じ。
・代襲相続人が複数いる場合、相続分は法定相続分による。
代襲相続人を確定するためには、被代襲相続人の戸籍を確認します。
相続人と代襲相続人、それぞれ確認するための戸籍の範囲を具体的にみてみましょう。
子の代襲相続の必要な戸籍の範囲
A(故人):出生から死亡までの戸籍
B(配偶者):現在の戸籍
C(死亡した子:被代襲相続人):出生から死亡までの戸籍
DE(子):現在の戸籍
FG(死亡した子の子:代襲相続人):現在の戸籍
H(死亡した子の配偶者)は相続人にならないことにご注意ください。
なお、相続分は下記の通りです。
B(配偶者):2分の1
DE(子):6分の1(2分の1×3分の1)
FG(代襲相続人):12分の1(6分の1×2分の1)
相続人がいない場合の対応方法
もし、故人に相続人となるべき人がいない場合、故人の財産は誰が相続するのでしょうか?
その場合、最終的に相続財産は国庫に帰属すると決められています(民法959条)。
相続人がいないということは、誰かが何らかの申請をしないことには手続き自体がスタートしません。
そこで法律では
①利害関係人または検察官の請求によって
②故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所が
③相続財産清算人を選任して
④清算する
と定めています。
①の利害関係人とは、故人の債権者、遺言で財産を譲り受けた人、特別縁故者などです。
特別縁故者とは、故人と生計を同じくしていた人、療養看護に努めた人、特別の縁故があった人などを言います。
①から④までの手続きの大まかな流れは下記の通りです。
(1)家庭裁判所は相続財産清算人が選任されたことのお知らせをします(期間:6か月以上)。
この間に相続人が現れなければ,相続人がいないことが確定します。
(2)相続財産の債権者、受遺者を確認するためのお知らせをします(期間:2か月以上)。
(3)相続人がいないことが確定してから3か月以内であれば特別縁故者は相続財産分与の申立てができます。
(4)相続財産清算人が、法律にしたがって債権者や受遺者への支払をしたり、特別縁故者に相続財産分与の手続をします。
(5)上記の支払等をして、相続財産が残った場合は、国庫に引き継いで手続完了。
内縁の夫・妻として長い間生活をしていた人は特別縁故者として財産をもらうことができるかもしれません。
そのためには相続人がいないことが条件になりますので、相続財産清算人が選任された6か月後に申し立てができます。
相続人がいない場合、特別縁故者に該当すれば財産を引き継ぐことができるかもしれないことを覚えておきましょう。
行政書士に依頼するメリットとは?
相続の手続きのなかでも、戸籍を集めて相続人を確認することは大きな負担です。
また、戸籍を確認して正しく相続人を把握することが難しい場合もあります。
行政書士に依頼することで手続きの負担が軽減され、その後の相続手続きの進行が確実に行えるというメリットがあります。
特に、相続人の確認のあとに行う財産目録の作成、遺産分割協議書の作成、遺産の分配は相続人間でトラブルが発生することあります。
行政書士は第三者の立場からサポートを行い、円満な相続をサポートしていますので、依頼することで安心して進められます。
相続手続きでお悩みの方はぜひご相談ください。