遺言書の確認
相続手続きを進めるとは、たくさんの戸籍を集めて、相続人同士で遺産の分配について話し合いをすること。
そう思われている方は少なくありません。

しかし、その前に大事なことがあるのです。

故人が遺言書を作成していたのかどうかを確認することです。

そこで第2回は、「遺言書の確認」について解説します。

なぜ遺言書の確認が必要なのか?遺言書の種類や確認方法、必要な手続きをわかりやすく解説し、初めての相続手続きでも安心して進められるよう、ぜひ参考にしてください。

遺言書の確認が必要な理由とは?

私たち専門家が相続について相談を受ける際、まず最初に行うのは「相続人の確定」です。

遺産を受け取る人、つまり相続の当事者が誰なのか分からないと、そもそも話し合いが進められません。

でも、それは戸籍を確認すれば分かることなのでは?

いいえ、そうではないのです。

戸籍を確認すれば法律で決められた相続人は分かります。

しかし、遺言によって誰に財産を渡すかどうかを自由に決められるため、相続人以外の人が財産を受ける可能性があります。
そして、遺言の内容は全てに優先するため、極端な話、相続人以外の人が全ての遺産をもらい受けることもあり得ます。

相続というのは、
①遺言があれば、それに従う。
②遺言がなければ、法律で決められた人(法定相続人)同士で話し合って決める。
という順番が決められているのです。

結論:遺言書の確認が必要な理由とは、相続においては遺言が全てに優先するから

まずは遺言書の有無を確認しましょう

遺言書の種類とそれぞれの確認方法

民法では遺言書の作り方として以下の3つが定められています。(普通方式)

・自筆証書遺言
・公正証書遺言
・秘密証書遺言

実際によく使われているのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つです。

自筆証書遺言

遺言する人が最初から最後まで、全文を自分で書きます。
必要なのは紙と筆記用具だけで、お金がかからないことから気軽に作成することができます。
また、作成した内容はもちろん、作成したこと自体を他人に知られることがありませんので、秘密にすることもできます。

一方、気軽に作れる反面、内容に不備があると遺言としての効力が生じないことや、相続人が保管場所を知らずに遺言書が発見されない可能性があります。

自筆証書遺言が作成されているかどうかを確認する方法は、それらしき場所を探す以外にはありません。
自宅の中以外では、銀行の貸金庫が考えられるでしょう。

なお、2020年7月より自筆証書遺言を法務局が保管する制度が開始されました。(自筆証書遺言保管制度)

自筆証書遺言保管制度

自筆証書遺言を法務局に持参をして管理してもらうことができます。
制度の詳細についてここでは触れませんが、ポイントは以下の通りです。
  • 事前に予約が必要
  • 手数料がかかる(3,900円)
  • 必ず遺言者本人が法務局に行くこと
  • 検認が不要
  • 遺言者が死亡したら相続人等に通知が届く
  • 遺言が有効かどうかの確認はしてもらえない(内容の相談はできない)
保管制度を利用すると遺言書そのものは法務局に保管されます。そして、保管の証明として「保管証」が交付されます。
自宅で保管証を発見したときは、最寄りの法務局に行って遺言書の内容を確認しましょう。(遺言書情報証明書の交付の請求)。

保管証は見当たらないけど、確かお父さんが自筆証書遺言を法務局に届けたって言った気がする…というような場合も、法務局に照会をして保管の有無を確認してみましょう(遺言書保管事実証明書の交付の請求)。

それぞれの手続きは郵送で行うこともできます。

ただ、誰でも手続きができるわけではないこと、遺言者が死亡していることの分かる戸籍書類等が必要になります。
事前に確認しておくといいでしょう。

公正証書遺言

遺言する人が公証役場に行って作成することができます。

事前に公証人と打ち合わせを行い、公証人が遺言者の希望に沿った内容を書面に落とし込むため、不備で無効になる可能性が低いです。
また、遺言書の原本は公証役場で保管されます。

一方で、遺言作成のために書類(戸籍等)を準備しなければならないことや、費用がかかることから、自筆証書遺言に比べると気軽に作成できるものではありません。

費用は、遺言で財産を渡す人の数、財産の額、当日立ち会う証人2名を準備できるかどうかなどによって異なりますが、10-15万くらいは見込んでおくといいでしょう。

公正証書遺言を作成すると原本は公証役場に保管され、遺言をした人は原本の写しを2部もらえます(正確には謄本と正本といいます)。

写しの2部のうちどちらも遺言書としての効力があり相続手続きで使用できますので、自宅や貸金庫に保管されていないかどうか探してみましょう。

なお、公正証書遺言は有無は最寄りの公証役場に行けば確認することができます。
誰でも確認できるわけではないこと、必要書類を準備しなければならないことは自筆証書遺言保管制度と同様です。

遺言書の検認手続きについて

自筆証書遺言を発見した場合、家庭裁判所で検認手続きを行わなければなりません。

検認手続きとは、全相続人に遺言があったことと、遺言の内容を知らせるための手続きです。
また、遺言書の状態、日付、署名などを明確にして,遺言書の偽造・変造を防止するための手続でもあります。

具体的な申請方法についてはここでは触れませんが、以下のような流れで検認手続きが進みます。
  1. 故人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に、申立書と集めた戸籍を添えて検認を申請する。
  2. 申立人と相続人全員に検認を行う日にちが通知される。
  3. 検認当日、参加者全員で遺言を確認する。その場で検認したことの証明書(検認済証明書)が綴られます。
申立人以外の相続人が検認に参加するかどうかは自由です。
ただし、申立人の参加は必須ですので、ご自身が申立人になった場合は遺言書を持って参加しなければなりません。

申し立てから検認日までは1カ月くらいかかると見込んでおきましょう。

遺言書を発見した場合、検認手続きを行うかどうかは任意ではありません。
必ず行わなければならない手続きであることにご注意ください(民法1004条)。

もし、遺言書が封筒に入ってたら開封してもいけまん。
そのため、検認するまで遺言の内容を確認できません。

なお、自筆証書遺言保管制度を利用した自筆証書遺言と公正証書遺言は検認手続きを行う必要はありません。

遺言書の有効性を確認するためのポイント

検認手続きは遺言の有効・無効の判断をするために行われるものではありません。
そのため、遺言書が法的な効力を持った内容かどうかを当事者が判断して手続きを進めることになります。

遺言書に書かれた内容が曖昧である、または複数の解釈ができるような場合もありますが、遺言自体が無効になるわけではありません。

一方、要件を満たさない遺言書では遺言自体が無効となります。
そのため、下記については最初に確認しておきましょう。

・遺言者の自筆かどうか
 パソコンで作成した文書であることや、代筆された箇所があるものは無効です。
 全文自筆、という厳格な要件があるためです。(財産目録は自筆でなくても有効です)

・日付があるかどうか
 日付の記載がない遺言は無効です。

・名前と捺印があるかどうか
 印は実印でも認印でも有効です。

・二人以上の人が遺言者となっていないかどうか
 夫婦ともに遺言者として作成されているような場合は無効です。

先ほどの検認手続きと関係して、よくある質問が、「無効な遺言は検認が不要ですよね?」というもの。
回答は、「有効・無効に関わらず検認は必要」です。

開封されている遺言書を発見した場合、日付、署名の有無などを確認するとともに、検認手続きは必須であると覚えておいてください。

遺言書の内容を確認した後の流れ

まずは遺言の内容を相続人全員で確認することをおすすめします。
自筆証書遺言のなかには、曖昧な内容であったり、複数の解釈ができるような書き方がされている場合もあります。
それにもかかわらず、一人の相続人の思い込みで手続きを進めてしまうと、あとで他の相続人とトラブルに発展することになります。

また、遺言書のなかで遺言執行者の指定があるかどうかも確認してください。
遺言執行者が指定されている場合、すぐに遺言執行者に連絡をしましょう。

遺言執行者の指定がなく、遺言内容も明確で相続人間の認識が一致するようであれば、遺言の内容通りに遺産を分配する手続きに入ることができます。

ただ、遺言書に記載のない財産や遺言書で財産をもらう人がすでに亡くなっている場合など、受取人がいない遺産は相続人全員の協議が必要になります(遺産分割協議)。

そのため、遺言書があれば遺産分割協議は不要、ということにはならない可能性があることにご注意ください。

遺言書の内容を確認した後は、財産目録を作成して遺言書に記載がない財産があるかどうか確認しましょう。

遺言執行者の役割と遺言書の確認

遺言書のなかで遺言執行者に指定されていた場合、財産の分配は遺言執行者が行うことになります。

遺言執行者の役割は、遺言の内容を実行することです。
具体的には、相続財産のリストを作成することや、遺産を換価して分配すること、不動産の登記名義を変更することが挙げられます。

これらの手続きは、遺言執行者が指定されていない場合は相続人全員で行うことになります。
例えば、預貯金を分配しようと思えば、相続人全員の署名捺印や印鑑証明書を揃えないと手続きができません。

一方、遺言執行者が指定されている場合は遺言執行者が単独で手続きを行うことができます。
行うことができる、と書きましたが、正確には遺言執行者の義務となるため、行わなければならない、と言えます。

もし、遺言執行者が指定されている遺言で、相続人全員の書類を揃えて金融機関に行っても手続きはできません。
遺言を実行できるのは遺言執行者だけだからです。

遺言執行者が指定されている場合は、必ず遺言執行者が手続きをしなければならないのです。

そのため、遺言執行者の指定がないかどうかを早期に確認するようにしましょう。

なお、遺言執行者の指定がない場合で、遺言執行者を決めたいと思っても相続人間の協議で特定の人を選ぶことはできません。
家庭裁判所に申請をして、遺言執行者の選任をしてもらうことが必要となります。

確認後に注意すべきトラブル防止のポイント

遺言書に書かれているのは故人が強く希望した内容であることは間違いありません。
とはいえ、遺言によって相続人間の仲が悪くなってしまったり、争いに発展するようなことがあってはいけません。

本稿の最後として遺言書の確認後に注意するべきポイントいくつかご紹介します。
法的に必要なものではありませんが、トラブル防止の観点からおすすめします。
相続人全員と内容を共有
全員に遺言内容を丁寧に説明し、誤解を防ぐことや、不満があればそれを一旦受け止めることが必要でしょう。
故人の意思とはいえ、財産の分配に不満を感じる相続人が出てくることは少なくありません。

財産の分配が少ない相続人にも配慮しながら進めることがトラブル防止につながります。
法的効力の確認
検認を受けた遺言であっても、その内容について法的に正しいということはありません。
そのため、単純明快な遺言内容でなければ、専門家に相談することをおすすめします。

問題ないと思って手続きを進めても、法的に無効な遺言であることが他の相続人から指摘をされると、大きなトラブルに発展してます。
遺留分に配慮
相続人には最低限の取り分、いわゆる遺留分という権利があります。
遺言書は遺留分とは関係なく、遺言者が自由に作成することができますが、その内容が実現できるかどうかは別の話です。

遺留分に満たない取り分しかもらえなかった相続人が、あとになって遺留分を主張することも考えられます。
トラブル防止の観点から、相続人と内容を共有する際には遺留分についても意識しておくのがいいでしょう。

第2回「遺言書の確認」はいかがでしたでしょうか。

遺言書を確認するべき理由、遺言書の確認方法など簡単な概要を解説しました。
遺言書を発見した場合はこれらの流れを参考に、法務局や家庭裁判所のHPで詳しい手続きを確認してみてください。

調べてみたけど分からない、という方も少なくありませんので、そんなときはぜひお気軽にご相談ください。