空き家

両親が住んでいた家を相続によって子が取得することが増えています。子も既にマイホームを持っている場合、相続した両親の家に住むことはありませんので、その活用方法に頭を悩ませることになります。

いづれは自分が住むかもしれないし、と思ってしばらくそのままにしておいたら数年間経ってしまったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ここ数年、国や自治体は補助金制度や税制改正を行って空き家対策を進めています。その中で、アメとして空き家を作り出さないようにするための「補助金や税優遇を設ける」、一方で、ムチとしては「空き家を放置することに対する税負担」があります。

そこで、本稿では相続した空き家についての注意点をまとめて解説します。

空き家の処分方法は売却or解体が正解か?

解体売れるうちに売ってしまう、というのが最善の処分方法といえます。空き家を売る、というより土地+空き家として売ることになります。

その土地に利用価値があれば売れますが、利用価値が低い場合は売れません

なかには、過疎地だから、田舎だから、と自分の価値観や不動産会社の意見を聞いて諦めてしまう方もいらっしゃいますが、隣近所の人の中には欲しいと思っている人もいるかもしれません。

売れなければ土地を管理していかなければなりませんので、一度は現地に足を運んで、隣近所の方に挨拶がてら売却について話をしてみるといいでしょう。

首都圏など土地の利用価値が高い地域の場合は、空き家を解体してから土地として売る方がメリットがあります

買手は建物を新築する目的で土地を買いますので、空き家があるよりも更地の方が好都合だからです。

でも、それだと解体費用を自分で負担することになるため負担増ではないか、と考える方もいます。

そこで出てくるのが補助金と税優遇についてです。

空き家解体に使える補助金制度について

自治体によって異なりますが、一定の要件を満たす住宅の解体に対して補助金を受けることができます。

例えば、横浜市であれば最大150万の補助金を受けられます(建築物不燃化推進事業補助)。

東京23区では台東区、江東区、北区、大田区など、補助金制度を設けている区もたくさんあります。

では、どんな建物でも解体すれば補助金の対象なのかといえば、そうではありません。

建築年が昭和56年6月以前であること、老朽化した建物であることなど、一定の条件が付いています。

これらの条件は自治体によって異なりますので、相続した空き家の市区町村のホームページで調べてみるのがいいです。

なお、空き家解体の補助金の他、建て替え後の建物建築に関する補助金、空き家の耐震補強工事に関する補助金などもありますので、空き家の活用方法が決まっていない段階でも、一度自治体のホームページを見ておくことをおすすめします

これらの補助金を活用して空き家を解体することで、少ない費用負担で買手のニーズにあった状態(更地)にできます。

それ以外にも、空き家を相続人が解体することのメリットがあります。それが、譲渡所得の特別控除の特例の利用です。

売却時には譲渡益に税金がかかる。一定の要件を満たせば減額されることも!

相続した自宅を相続人が売却した場合、確定申告をして税金を納めることになります。

税率は所有期間によって異なります。亡くなった親が買ったときから相続した子が売ったときまで通算した期間が所有期間となります。

所有期間が5年を超えていれば税率は20%、それよりも短ければ39%です。

もし、所有期間が5年超だったとして、売った価格の20%が税金となるわけではありません。不動産の税金は譲渡益(譲渡所得)に課税されます。

譲渡益(譲渡所得)に課税される、とは、買った時より売った時の金額が大きい場合の儲かった部分に対して税金がかかるということです。損をしたら税金はかかりません。

例えば、親が1,000万で買った自宅を、子が相続した後で4,000万で売却した場合、3,000万の儲けが出たことになります。

譲渡所得3,000万に対して税率20%のため、税額は600万です。

実際の譲渡所得を算出する際には、購入時の諸費用を取得費として買った金額に加算したり、売った時にかかった諸費用を売却金額から差し引いたりして計算します。

大まかにどの程度の税金がかかるのかは、(売却価格ー購入価格)×税率、で計算できます。

親から相続した不動産の中で、親が昔から所有している不動産は値上がりしている事も多く、特に首都圏では売ると大きな譲渡所得が出ることも少なくありません。

その譲渡所得を減らすことができるのが、譲渡所得の特別控除の特例です。

譲渡所得が減れば、その分税額も減りますので大きな節税につながります。

被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例

特例は細かく複雑なので、主な要件をだけ確認します。

これらの要件を満たしている場合、特例が使える可能性が高いといえますので、その後は専門家に個別相談することをおすすめします。

まずは、相続した建物について、以下3つの要件を満たさなくてはなりません。

  1. 昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
  2. 区分所有建物登記がされている建物でないこと。
  3. 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。

1.は、建物の建築年についての制限です。法務局で建物の登記事項証明書を取得すれば分かります。これは、いわゆる旧耐震基準の建物を指しています。

2.は、区分所有ということなので、マンションは対象外となります。

3.は、被相続人(亡くなった人)以外に居住していた人がいないこと、となっているため、両親が住んでいて、そのうち父親が亡くなったけど、母親はまだ住んでいる場合は対象外ということです。

親が一人で住んでいて、その親が亡くなったことにより空き家となった建物を対象としています。

そして、相続した子が売るときの条件として、以下の要件があります。

  1. 相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと
  2. 譲渡の時において一定の耐震基準を満たすものであること。または、家屋の全部の取壊し等をした後に売ること

1.は、ずっと空き家にしておいて売らなければダメ、ということです。ちょっと間だけ貸してしまうとか、親族がちょっとだけ住むこともダメです。

2.は、耐震改修工事を行っている建物であれば問題ないが、そうでなければ解体したあと売らないと適用外ということになります。

特例の対象になると、税金の計算上、譲渡所得から3,000万を差し引くことができます

先程の例ではちょうど3,000万の譲渡所得が出たことになりますが、本特例を使えば譲渡所得は0円、税金も0円となります。

本来は税金が600万円かかるため、特例が使えるかどうかはとても大きいです。

もし譲渡所得が4,000万であれば、本特例で3,000万を差し引けますので、譲渡所得は1,000万円となり、税金は200万円です。

節税効果がとても高い特例なので使えそうな方は事前に情報収集をしてみてください。

令和5年度税制改正の大綱

本特例は2023年末が期限となっていましたが、4年間延長となりそうです。

また、空き家を相続した相続人が3人以上の場合、控除額が3,000万から2,000万に引き下げられます。

そして、譲渡後に耐震基準に適合することとなった場合や、建物を解体した場合でも特例の対象となります。

改正前は、建物の解体等は譲渡前に行うことが条件でしたが、譲渡後でも認められるようになるのは大きな変更点です。

これらは税制改正の大綱の内容なので、実際に税制改正が行われるまでは分かりませんので改正を待ちたいと思います。

空き家を現状維持するだけでも費用がかかります。火災保険や固定資産税について

相続人が多くてなかなか方針が決められないということもあり、空き家をそのままにしておくことがあるかと思います。

だれも使っていない状態であれば、電気、ガス、水道の使用料金の負担はありません。

一方、不動産は所有しているだけで固定資産税等がかかってきます。特に、管理状態が悪い空き家については固定資産税等の減税措置が取り消されることもあり、その場合は税額が6倍になってしまいます。

固定資産税等の減額措置と特定空き家制度について

建物(住宅)が建っている土地の固定資産税は特例として課税標準(評価額のようなもの)が1/6に減額されています。

もし住宅ではなく、店舗が建っている土地の場合、同じ土地でも課税標準が6倍異なるということです。

具体的にみていきましょう。

固定資産税は(課税標準×税率=税額)となります。税率は1.4%です。

土地の課税標準が1,200万としたら、店舗が建っている土地の税額が(1,200万×1.4%=16.8万/年)となります。

一方、同じ土地に住宅が建っていると、土地の税額が(1,200万÷6×1.4%=2.8万/年)となり、減額が使えるかどうかで税額が6倍異なることが分かります。

この減額措置があるため、建物(住宅)が使えなくても撤去せずにそのまま放置しておくことがあります。

税額が上がらないようにするためです。

そんな中、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が制定され、適切な管理が行われていない空き家が放置されることへの対策として、固定資産税等の減額措置を解除できるようになりました。

これからは空き家も適切に管理していかなければなりません。

そして、空き家だからこそ気を付けたいのが管理不行き届きにより周囲に迷惑をかけてしまうことによる損害賠償です。

空き家でも火災保険の加入は必要です。管理者賠責責任を補償する保険かどうか。

火災保険というと、自分の財産を守るための保険という印象を強く持たれている方が多くいらっしゃいます。

火事で家が燃えてなくなったしまったときに保険金がもらえる。

床上浸水によって床を全部貼り替えなくてはならなくなったので、そのための修繕費用がもらえる。

というように、自然災害によって家が損壊した際の復旧費用を賄うための保険が火災保険です。

もちろん空き家に火災保険をかけることもできます。

でも、もともと使っていない、取り壊そうと思っている建物だから自然災害で壊れても問題ないから火災保険は不要だ、と思って、保険加入していない方がいます。

すでに老朽化しているため空き家自体の損害は大きなものではありませんが、もし空き家が原因で隣近所の方に迷惑をかけてしまったときの損害は小さいものとは限りません。

例えば、相続人が遠隔地に住んでいるため建物の状態を把握できておらず、屋根が今にも飛ばされそうな状態であり、その屋根が飛ばされてしまって隣の車を傷付けてしまうこともあります。

車であればまだいいですが、それが隣に住む小さな子供だったとしたら…

所有者には空き家を適切に管理する責任があります。

その責任が果たされず、他人に危害が及んでしまったときには損害を補填しなければなりません。

そのための保険が管理者賠償責任保険です。これは火災保険の特約として加入する保険です。

似たような保険として、日常生活で起きた事故、例えば自転車に乗っていて人にぶつかってしまった時など、相手方に支払う治療費等の損害を補填する保険として、個人賠償責任保険があります。

管理者賠償責任保険は、自分が住んでいない建物の管理などの際の事故を対象としていますので、空き家を所有する場合には個人賠償責任保険も管理者賠責保険も両方加入するべきです。

どうしても費用負担を安く済ませたいなら、建物にかける火災保険は最小限の補償内容として管理者賠責保険を付けるのがいいでしょう。

相続した不動産は登記手続きが必要です。令和6年4月1日以降、相続登記は義務化されます。

空き家を相続した場合、その後に売却・解体、どちらにしてもまずは登記手続きを行わなければなりません。

登記とは、公開されている不動産の所有者名簿のようなものです。

登記記録には亡くなった親が所有者となっているため、相続した子の名義に変更するのが相続登記手続きです。

登記名義人を変えるかどうは当事者の自由のため、相続をしても相続登記をしていないことが少なくありませんでした。しかし、登記上の所有者と実際の所有者が異なることで、所有者不明の土地が多く存在することになり大きな問題になっています。

そこで、令和6年4月1日以降は相続登記を行うことが義務化されました。空き家活用を考える以前の問題として、相続が発生したら登記が必要だ、と覚えておいてください。

相続したけど処分できずに困った時どうすればいい?相続土地国庫帰属制度

結局、相続して色々と手を尽くしてみたけど売れない・貸せない土地が残ってしまうこともあります。

土地を所有しているだけでも費用負担が重くのしかかってきます。

そして、遠方に住んでいるため管理ができないなど、そのまま放置されることで、将来、「所有者不明土地」が発生することになりかねません。

それを予防するため、令和5年4月27日より相続土地国庫帰属制度が始まります。

これは、相続した土地を、お金を支払って、国に引き取ってもらう制度です。

どんな土地でも引き取ってもらえるわけでなく、下記のような土地を引き取ってもらうことは難しいです。

  • 建物が建っている土地
  • 境界が明らかでない土地
  • がけ地
  • 管理にあたって過分な費用、労力がかかる土地

他にもいくつか例示されていますが、面倒な土地を国が引き取ってくれる、というわけではなく、ある程度権利関係などが整理されたものでないと対象になりません

とはいえ、使い道のない土地を延々所有し続けなくても良い、というのはありがたい話です。

詳しく知りたい方は総務省のホームページで確認してみてください。

相続した空き家の相談はどこにすればいいの?

このように、相続した空き家には様々な制度(補助金)、税が絡んできます

相談窓口によっては特定の解決策しか提案してもらえないこともあります。

解体の見積もりを依頼した会社から、「建物の耐震改修の補助金がもらえるから、改修工事をして貸し出しましょう」、という提案は期待できません。

空き家活用を幅広く検討するためには、専門家同士をつなぐハブの役割を担える、広い知識を持った専門家が求められています。

ぜひ、不動産・相続を専門にしている当事務所にご相談ください。