住み替えに使える住宅ローンは?

結婚、子供の誕生・独立などライフステージの変化に合わせて住み替えをすることは珍しいことではありません。

一方、不動産価格の上昇、新型コロナの影響による住まいに対する価値観の変化によって購入から数年しか経っていない方も住み替えを検討しているケースが増えています。

そこでぶつかる大きな壁は、「資金調達(住宅ローン)をどうするか」ということです。

既存の住宅ローンを抱えながら、もう1本新規に住宅ローンを組むことはできるのでしょうか?

できないとしたら、どのように資金調達すればいいのでしょうか?

そんな疑問を解消するべく、本稿では中古住宅の住み替え時の資金計画を中心にポイントを解説します。

理想の住み替えパターンは先行購入

住み替えにおいて、先に買うのか、先に売るのか、どちらが良いのか質問を受けることがあります。

一番スムーズで負担が少ないのは、購入を先行させて住み替え先の物件に住むことです。売却を先行してしまうと、気に入った住み替え先が見つからない場合は仮住まいが必要になってしまうため、経済的負担が大きくなります。

また、持家の売却を先行するとせっかく高く売れるかもしれない機会を逃してしまうことにもなります。

中古住宅の売買では居住中の状態で販売をするよりも、空室の状態でホームステージングすることやクロスの貼り替え、水回りのクリーニング、フローリングの傷補修等を行い、見栄えを良くする方が高値で売れます。

販売を行う不動産会社目線で考えても、時間や曜日の制限が無くいつでもお客様のご案内ができて、室内のどこでも自由に見られる、そして新築マンションのように家具がディスプレイされている方が売りやすいものです。

そのため、できることなら空室の状態にして売却する、つまり先に購入して転居するべきです。しかし、先に購入するためにはどうやって資金調達するかという問題があります。

 

資金調達の壁

購入先行住み替え計画の最大の難所、肝になる部分です。

住み替え先物件としてとても気に入った物件が見つかり、何が何でも欲しい、という場合、「持家が売れたら買います!」と言っても待ってはくれません。そのうち他の人に買われてしまうでしょう。

そのためにも、持家が売れる前に購入先の資金調達をすることがポイントになるわけです。

具体的な事例で解説します。

1.配偶者がローンを組む

夫婦共働き家庭の場合、ご主人単独で現在の住まいの住宅ローンを組んでいれば、奥様が新規に住宅ローンを組むことができます。

このパターンは基本的に奥様に対する新規の住宅ローンになるので取り扱っている金融機関は多く、相談先に困ることはないでしょう。

買い替え先に引っ越してから持家の売却にじっくり取り組むこともできるので理想的です。

また、持家の売却においてはご主人が居住用財産3,000万控除を使えることや、買い替え先で奥様が住宅ローン控除を利用することができ、メリットが大きいです。

2.既存のローンを残しつつ、新規にローンを組む…その1

新規+既存のローンの返済を合算しても年収からみて返済に余裕があると判断される場合には利用できます。

金融機関毎に、年収に占める借入金の返済割合(返済比率)を決めており、その枠内に収まることが条件になります。

返済比率が30%以内と決められていると仮定すると、年収1,000万の方は年間300万までの返済に収まる範囲で借入ができることになります。金利1%、35年返済だと8,900万(年間返済3,014,808円)まで借りられる計算です。

すでに5,000万の住宅ローンを組んでいても、住み替えのために新規に4,900万のローンを組むことも可能だということです。

しかし、実際にはそこまで大きな金額は借りられません。

なぜなら、金融機関ではローンの審査をするための金利(審査金利)と実際に借りられる金利(実行金利)は大きく異なります。概ね、審査金利は3~4%でみており、実行金利はHP等で掲載されている通り最優遇で0.4%(変動金利)前後です。

つまり、審査上では金利を3%で計算して返済額を算出、その返済額が収入に対する返済比率に収まるかどうかで借入金額が決まるということです。

年間300万の返済でも、金利3%、期間35年だと6,500万(年間返済3,001,836円)までしか借りられません。

金融機関によって返済比率、審査金利は異なりますので、たくさん借りたい場合には返済比率が高く、審査金利が低い(実行金利と同じ)金融機関を探す必要があります。

これらの情報は公開されているわけではないため、1件1件電話して聞くなど地道な努力を要します。

ちなみに、うまく審査が通って借り入れができたとしても、既存の住宅ローン返済のために物件を売却することになります。

住宅ローンで借りている物件を賃貸にすることはできないためです。賃貸物件として引き続き所有を継続したいのであれば、既存住宅ローンを事業ローン等に借り換えるか条件変更を申し出ることが必要です。

3.既存のローンを残しつつ、新規にローンを組む…その2

先ほどの2.は返済比率に余裕があり、2本同時に住宅ローンを組むだけの年収がある方の場合です。

では、今のローンで一杯一杯、新規のローンだけであれば返済比率に問題がないのに…という方はどうすればいいでしょうか?

一定の条件を満たした場合、既存の住宅ローンは返済比率に含めない、という扱いで審査を進められる金融機関があります。

つまり、新規のローン返済だけが審査対象になるわけです。

これなら新規に住宅ローンを組むことと同じわけなので、住み替えだから審査が難しいという悩みはなくなります。

住み替えの場合は利用できるならこのパターンを利用したいのですが、取り扱っている金融機関が少なく、審査が厳しいため誰もが利用できるわけではありません。

現在の自宅の担保価値と残債、購入物件の担保価値、借入れをする人の勤務先、年収など、それぞれが高いレベルを求められるため、いくら年収が高くてもローンを組んだばかりで残債がほとんど減っていない場合には利用できない、ということになります。

なお、うまく住み替えが進められた際には、旧自宅は売却することになりますが、いつまでに、いくら以上で、という条件が付くわけではありませんので、自分のペースで売却を進めることができます。

4.既存のローンを完済することを条件に、新規のローンを組む

れは、上記3.と同じ審査方法(既存の住宅ローンは返済比率に含めない)で進めることができるのですが、融資を実行するときまでに既存債務を完済することが条件になります。

つまり、買い替え先の購入資金を借りるためには、現在の自宅を売る(既存住宅ローンを完済する)ことが必要です。

この場合、先に買うことができません。

まずは自宅の売却活動を行い、買い手が付いた時点で購入の手続きを進めることになります。

住み替えを長期戦で考えている方にとっては問題にはなりませんが、すでに購入したい物件が見つかっている方には利用しづらい方法です。

自宅の売却をしている間に買いたい物件が売れてしまう可能性があるからです。

それでも、他に資金調達の目処が立たないのであれば買うためには売るしかないわけです。

売却依頼をすれば、早くて1週間後にはネット等で物件は公開されます。うまくいけば売り出してから2週間後には契約となるでしょう。

早く売れるかどうかは売り出し価格によりますので、スピード重視ならある程度割安感のある価格設定が必要です。

そして、売却の契約をすれば、購入先の物件も押さえる(契約する)ことができる可能性が高まります。

住み替え先の売主の立場からみて、「売れたらローンが組める人」からの購入申し込みを検討するにあたって、すでに売却の契約をしているのであれば、「住宅ローンが組める人」と同等の扱いでもいいと思うでしょう。他に「現金で買う」等よほど有利な検討客がいなければ契約できる可能性は高いです。

なお、購入契約をしたあと、売却契約が何らかの理由によってキャンセルになってしまった場合、購入契約もキャンセルできるような条件を付けることが一般的です。

このように、住み替えの際は売却、購入それぞれの契約に住み替え特有の特殊な事情を契約条件に入れることが大切になりますので、信頼できる不動産会社に依頼することもポイントになります。

■まとめ

私の経験上、数年前に購入した方が住み替えを検討している場合、借入時から夫婦で目一杯ローンを組んでいます。

そのため、住み替えのための資金調達では上記3.4のどちらかになります。そして、3.は条件が厳しく、結局4.しか方法がない、ということになります。

ここ数年、都心部の不動産価格が大幅に上昇していることもあり、多少安くしても売れば利益が出るため住み替えの必要性が高い方は積極的に行動している印象があります。

そうなると、いかに素早く、適正な価格で売ってくれるのか、パートナーとなる不動産会社の選定が肝になります。ここは本当に大事な部分ですので、繰り返し強調して言わせていただきました。

 

また、資金調達がうまくいき先行購入できた場合、売却が完了するまで既存の住宅ローン・新規のローン、のダブルローンの支払が続くため、持家の値段を下げて一刻も早く既存の住宅ローンを完済したいと考えている方が少なくありません。

売却が長引く事のコストは毎月のローン返済額のうち利息相当額、マンションであれば管理費・修繕積立金くらいで大きな負担ではありません。

例えば、借入金5,000万、金利0.6%、返済期間35年で借りた場合、月々返済132,014円、返済から5年経過しているとその内利息は21,000円くらいです。1年売却が長引いても、その分余計にかかるコストは21,000円×12か月=240,000円程度です。(月々返済132,014円×12か月=1,584,168円ではありません。)

それにもかかわらず、早く売りたいがために「端数分の値引きは当たり前」「なかなか売れないので200万下げましょう」という不動産会社の言葉を鵜吞みにして値引きをしてはいけません。

昨今のような不動産価格が上昇基調の局面であれば、売却期間が長引いても希望の価格で売れる可能性は高いと言えます。売却期間が長引く事を恐れず、少しでも高く売ることを目指しましょう。