おひとりさま相続時の自宅の行く末は?~事実婚パートナーはどうなる?~

配偶者も子供もいない、おひとりさまの相続についての相談が増えております。

未婚の方もいらっしゃいますが、配偶者が亡くなったためおひとりさまとなった方もいます。

おひとりさまに相続が発生した場合、自宅はどうなるのでしょうか?持家ではなく賃貸の場合もあるでしょう。その時、事実婚のパートナーがいれば、自宅を引き継げるのかどうかは大きな問題です。

結論としては、賃貸であれば契約を引き継げますが、持家の場合は引き継ぐことが難しいです。

賃貸(不動産賃借権)は相続可能です。そのため、親、兄弟の相続人がいれば不動産賃借権を引き継ぎ、それを援用することでパートナーは居住を継続できるという判例があります。

相続人がいない場合、法律で「事実上夫婦と同様の関係にあった」者による不動産賃借権の承継の制度があります。

一方、持家だった場合、相続人がいれば相続人が持家の所有権を引き継ぐことになり、パートナーが継続して長期間居住することは難しいです。

もし持家を事実婚のパートナー(もしくは特定の誰か)に確実に引き継がせたいのであれば遺言を作成しなくてはなりません。

そこで本稿ではおひとりさまの相続の時の自宅(持家)の行く末について詳しくみていきたいと思います。

1.相続が起きた場合の財産の受取人は誰?

財産の受取人は民法で推定相続人として決められております。また、優先順位も決められており、最優先の者がいない場合は次順位になり、次順位もいなければ次に、という形です。

最優先順位は子供です。次は親、その次が兄弟になります。なお、配偶者は常に相続人となります。

つまり、子供がいれば子供が相続人となり、子供がいなければ親が、親がいなければ兄弟が相続人となります。子供(最優先)と親(次順位)が同時に相続人になるということはありません。おひとりさまの相続の場合、親は亡くなっている可能性が高いため、兄弟がいれば相続人となります。

(相続人が誰もいない場合は、家庭裁判所の相続財産管理人の選任を経て、特別縁故者に分与されるか国庫に帰属します。)

 

2.誰がどのくらいの財産を受け取れるの?

これも、民法で法定相続分として決められております。誰が相続人となるのか、また配偶者の有無で配分が異なります。

  配偶者の相続分 配偶者以外の相続分
配偶者と子 2分の1 2分の1
配偶者と親 3分の2 3分の1
配偶者と兄弟 4分の3 4分の1


同順位間での相続分は平等です。

例えば、おひとりさまの相続で兄弟2名(兄と妹)が相続人となった場合、兄が2分の1、妹が2分の1を受け取ることになります。

ただ、財産の2分の1をもらう権利があるといっても、具体的に、この財産は兄がもらって、こっちの財産は妹がもらって、と決めなければなりません(遺産分割協議)。しかも、遺産分割協議は相続人全員が合意しなければなりません。つまり、相続分は2分の1づつと決まっているにもかかわらず、どの財産を誰が受け取るかどうかということは兄と妹が話し合って合意しないとダメなのです。そもそも、全ての財産をキッチリ2分の1に分割することなんてできないものです。

法律で相続分は決められているのに、相続人全員が合意しないと自分のものにならないなんてあんまりだ…と思いませんか?

だからこそ、遺言が必要なんですね。

3.遺言の効力

先ほど説明した推定相続人、法定相続分というのは一般的にかなり浸透していて、何となく知っている方も多いのではないでしょうか。

遺言があると、それって法定相続分と推定相続人にどのような影響があるの?と考えるようですが、そうではなく、遺言がないから推定相続人、法定相続分に従って分割することになる、と考えましょう。

極端な言い方をすれば、遺言は全てに優先するため推定相続人や法定相続分は関係なくなります。それだけ強い効力が認められているのです。

自分の財産をどうするのか法律が勝手に決めていて、それに従わなくてはならないのは嫌じゃないですか?今まで築き上げた財産を、自分の死後に誰に託すか自由に決められるのは当たり前のことで、その方法が遺言ということです。

先ほどの兄弟の相続で言えば、兄に持家を、妹に現金1,000万を譲るとの遺言があれば、その通り分割することになります。持家の価値が5,000万で、妹から見れば全財産の2分の1の権利があるのに1,000万しかもらえないのは間違っていると文句を言ってもダメです。遺言が優先です。

 

4.おひとりさま相続の遺言

遺言があれば思い通りに財産が残せるわけですから、これを使わない手はありません。

事実婚のパートナーは配偶者ではありませんので推定相続人にはなりません。でも、遺言で持家を譲れば(遺贈)そのまま住み続けることができるのです。持家に限らず、預貯金などの財産を特定の誰かに残したいなら、遺言で譲ってあげましょう。

特に誰かに譲ってあげたいとも思わない、という方もいるでしょう。

それでも遺言をして欲しいです。なぜなら、相続人間での争い防止になるからです。

先ほどの例で少し触れましたが、相続財産を分配するためには遺産分割協議が必要です。

遺産分割協議は、相続人全員が合意しなければなりません。

相続人は兄弟が想定されますが、もし兄が亡くなっている場合、その子供(甥・姪)が相続人になります(代襲相続と言います)。それらの全員が合意する分配内容を決めるというのはなかなか難しく、遺産を巡って争いになるというのは容易に想像できます。

兄、妹が存命であったとしても、高齢で意思表示ができないというケースも考えられます。そうなると、「合意する」ことができず、遺産分割が進められないことになります。

遺産分割ができないけど、持家の固定資産税の支払いや清掃などの管理は相続人がしなければならない事態になるわけです。

争いのタネを残さない、という意味でも遺言でしっかり財産の行く先を決めてあげてください。

 

5.まとめ

遺言を作ることで事実婚のパートナーへ財産を譲ることができます。自宅が賃貸か持家かにかかわらず、遺言で自宅の行く末を決めてあげてください。

一方で、遺言書の作成方式には厳格な決まり事がありますので、自分で書く自信がない方は専門家に相談しながら進めることも検討されてはいかがでしょうか。