親の土地に子が自宅を建てると、相続のときに苦労する??

ここ最近、横浜市の不燃化推進事業による建物解体補助金申請の相談を受けることが増えました。補助金申請は行政書士として委任を受けて手続きをするのですが、土地、建物の名義人を調べると親の土地に建っている建物を解体、その後に子が自宅を建てるというケースが結構多いことに気づきました。手続自体は問題なく進められるのですが、将来親御さんが亡くなられたときにやや面倒なことになる可能性は認識しているのだろうか、と少しおせっかいな思いが出てきました。そこで今回はどのような面倒なことが想定されるのか見ていきたいと思います。

土地の上に建物を建てる権利

当然ですが、土地と建物は別物です。つまり、土地を所有しているからこそ土地上に建物を建てられるわけですね。では、土地を所有していないのにそこに建物を建てるためにはどうすればいいのでしょうか?

土地を借りるわけです。建物を建てることに限りませんが、月極駐車場では車を駐めるためにお金は払って駐車区画を借りますよね。それと同じように建物を建てるために土地を借りなくてなりません。月極駐車場と異なり建物を建てるために土地を貸し借りする場合、借地権という権利を設定することになります。借地権とは土地を借りて建物を建てられる権利です。一般的に借地権を設定する場合は借地期間、地代、権利金(一時金)を決めて契約書を作成します。

それでは、親子の関係(土地:親、建物:子)でこのような借地契約を締結して権利金・地代を支払っているのでしょうか?

権利金、地代の金額は相手方との交渉(相談)で決まります。決まった金額はありませんが、権利金は更地価格の3〜6割くらいとも言われます。もし親の土地が3,000万の評価額であれば1,000万くらいのお金がなければ子は借地権をもらえません。しかも、このお金は住宅ローンでは工面できませんので貯蓄で用意することになります。その他に毎月支払う地代が発生するのです。

そのため、親子という特別な関係にある場合、借地権を設定することはせず、無償で親の土地に子が建物を建てているのが実態です。また、土地の固定資産税くらいは親に代わって子が支払うことで親に迷惑をかけないとしてる方も多いかと思います。

子が自宅を建てるときに親に相談して進めているのでしょうから、親が元気なうちは問題ありません。自分の土地を誰に使わせるかというは所有者(親)の自由なのですから。

それでは、その親が亡くなったとき、つまり相続のときはどうなるでしょうか?子の建物が建つ親の土地はどのように評価されるのでしょうか?

土地の評価

借地権が設定されている土地(底地)の評価額は自用地と比べると相当低くなります。自分では自由に使えない土地(他人に貸している)ですから、自由に使える土地と比較して評価額が低くなるのは理解しやすいですね。それでは、親の土地も同じように評価額が相当低くなるのでしょうか?

この場合、子は親から建物建築を許されたことにより土地の使用貸借契約を結んでいたとされます。そして、使用貸借契約が結ばれている土地(使用貸借の負担付き土地)として遺産評価の際には使用借権相当額(非堅固な建物である場合には土地の1割程度と評価されるのが一般的)を減価するのが相当とされています。

借地権に比べて使用貸借契約という土地利用契約は貸主にとって制約が少ない(原則としていつでも借主に対して契約を解除し、物の返還を要求することができる)ため、土地の評価額も自用地評価に近くなるということです。

遺産の分割

現実問題として親の土地を相続した相続人は子に対して建物を撤去して土地を明け渡すことを要求することは困難です。相続人が子2人(兄、弟)だとして、弟が土地を相続して、兄に家を撤去するよう要求することはできないですよね。

そのため、自分名義の建物を建てた兄が土地を相続して、それに見合う財産を弟が相続することになるでしょう。それが親の希望していることにも合致しそうです。

土地の評価額2,700万(自用地評価3,000万だが使用貸借契約のため1割減額)、預貯金3,000万が遺産だとします。

相続人は子のみ(2人)、相続分は半分づつとなります。

兄は親の生前に使用借権の設定を受けることで利益を受けていました。そして、この利益は特別受益とされます。そのため、遺産総額には特別利益(300万)を含めると6,000万になります。6,000万を兄弟で半分づつ相続することになるため、それぞれ3,000万、兄は生前に300万を受け取っているため2,700万、弟は3,000万の具体的相続分を取得します。

これに従って、兄は土地2,700万、弟は預貯金3,000万を相続する内容の遺産分割協議書であれば両者納得して印鑑をつくことでしょう。

しかし、こんなに預貯金がたくさんある人は少ないのではないでしょうか?

もし預貯金が1,000万だとどうなるでしょう。土地評価額2,700万、特別利益300万、預貯金1,000万で遺産は4,000万です。兄弟で半分づつですので、2,000万がそれぞれの取り分です。兄は生前に300万受け取っていますので1,700万の具体的相続分があり、弟は2,000万です。預貯金は1,000万しかありません。弟は預貯金1,000万の他に、土地の持ち分(2,700分の1,000)を相続することで2,000万分の財産をもらうことになりますが、共有名義は望ましくありません。とはいえ、兄は自分の財産から1,000万を弟に払うほど家計に余裕があるわけではありません。

こんなとき、「兄のオレが土地をもらう。現金1,000万あるんだからお前(弟)はそれでいいだろ?。親父だってそのつもりでオレの家を自分の土地に建てさせてくれたんだから。わかるだろ?」とか言われてしまいそうです。

土地は兄が使っている(建物がある)のだから使えないし、地代を支払えとも言えない。持ち分としてもらっても意味がないから仕方ないか・・・と渋々弟は応じるけど心のなかでは納得できずに・・といったところでしょうか?

ここで弟が強気?に出てきたら泥沼ですね。地代を支払え、建物を撤去したうえで土地を売却してお金で分けよう、とか言い出されたら兄は怒り心頭でしょう。

そうさせないために親は生前に強く子供(弟)に言い聞かせなくてはならないのでしょうか?

そうではなく、遺言を残すことですよね。

「子(兄)には土地を相続させる。子(弟)には預貯金を相続させる」とすることです。遺留分は相続財産の2分の1、それに各人の法定相続分をかけたものが具体的な遺留分です。つまり、弟の遺留分は1,000万です。それは預貯金で満たされるため十分となります。遺留分侵害もなく、兄は土地を相続でき、親父の遺言なんだから、と弟も納得。めでたし、めでたしと。

まとめ

相続において、親が元気なうちはいいけど、ということは非常に多いです。特に不動産に関することは。

それもあって、不動産は

  • 残さない(できれば生前に売ってしまう。現金化する)
  • 置いていかない(遺言で誰が相続するのか明確にする)

ことを肝に銘じてほしいと思います。