紛らわしい「適合証明書」の違いと住宅ローン控除の適用可否

都内では新築マンションの値上がりが顕著となり、以前ほど売れ行きが良くないようです。一方、価格が割安であることや、自分好みに室内をリフォームできることもあり、中古マンションの人気が高まっております。

特に、リノベーションマンションという分野が若い方を中心に人気を集めており、自分でリノベーションするための中古物件を探す方や、不動産業者が内装工事を行ったリノベーション済マンションを中心にマイホームを探す方がいます。

特に中古マンションを購入する際、住宅ローン控除が使える物件なのか、控除限度額はいくらなのか、とても気になりますよね。

また、長期固定金利が魅力的な「フラット35」が使える物件に絞って探している方もいらっしゃるかと思います。

でも、ネットに出ている情報だけではイマイチ良くわからない。直接不動産業者に問い合わせるとしつこく営業されそうだからちょっと気が引ける。そんな方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、中古マンションの

住宅ローン控除が受けられるかどうか

フラット35が使えるかどうか

を、見極めるための簡単なポイントをご紹介します。

住宅ローン控除の適用要件

詳しくは国税庁のHPに掲載されておりますので、ポイントだけ確認します。なお、住宅ローン控除は「住宅借入金等特別控除」が正式名称なので、検索するときは正式名称で検索してみてください。

  1. 住宅の床面積が50平方メートル以上あること。
  2. 取得時、建築年が木造20年、耐火建築物25年以下であること。
  3. 耐震基準に適合する建物であること。

ネット検索の際に、1〜3の順番で確認してみてください。1がダメなら、その物件は適用不可です。2がダメでも3がOKなら適用可です。つまり、1と2,1と3がOKなら適用可、ということになります。

以下、それぞれのポイントを見ていきましょう。

住宅の床面積が50平方メートル以上

マンションの場合、広告表示の床面積で考えてはいけません。一般的にマンションの床面積は壁芯面積(壁の中心から測る)で表示されています。一方、住宅ローン控除の要件である50㎡以上というのは公簿面積(壁の内側から測る)です。

壁芯面積>公簿面積となるため、広告表示で50㎡ちょうどの物件はアウト、住宅ローン控除が受けられません。

では、壁芯面積で何㎡あれば公簿面積50㎡以上になるの?と聞きたくなりますよね。

残念なことに、一律、壁芯面積○○㎡で公簿面積50㎡以上、とはなりません。それは、マンションの間取り等により壁芯面積と公簿面積の差分割合が異なるからです。

私の経験則から10%以上乖離するケースはほとんどありません。5%前後が一般的です。つまり、広告表示53㎡〜あれば公簿上50㎡以上の可能性あり、55㎡〜あればほぼ問題なし。51〜52㎡だとちょっと厳しいかも。

不動産業者に問い合わせて登記簿謄本を送ってもらう、または担当者に確認すればハッキリします。面積がきわどい時には勇気を出して電話してみましょう。

余談ですが、戸建ては広告表示も登記簿も床面積は同一です。

取得時、建築年が木造20年、耐火建築物25年以下であること。

マンションなので築25年以内であればOKとなります。一般的に広告表示の築年数も登記簿と同一です。そのため、これから取得しようと考えている方は平成7年より新しい物件であれば良いということになります。

エッ、それより古いとダメなの?

と思われた方。諦めるのは早いです。築25年以上でも住宅ローン控除を受けることができます。それが、次に出てくる「耐震基準に適合する」という要件です。

耐震基準に適合する建物であること

結論から言うと、下記の証明書が発行できる建物であるということです。

  • 耐震基準適合証明書(※)
  • 既存住宅売買瑕疵担保責任保険契約の付保証明書(以下、付保証明書と略します)

(※)耐震基準適合証明書とフラット35適合証明は全くの別物です。プロでも混同している人がいますので、中古マンションを購入される際には必ず自分自身で確認されることをおすすめします。

広告表示に上記いずれかの証明書が発行できると記載されていれば、築25年以上経過している物件でも住宅ローン控除が使えます。

では、広告表示に記載されていない場合は諦めるしかないのでしょうか?

それとも、勇気を出して不動産業者に、「耐震基準適合証明書は発行できますか?」と電話するしかないのでしょうか。

ここで、簡単に確認できるポイントがあります。そのポイントをお伝えする前に、耐震基準適合証明書と付保証明書の関係について少しご説明します。

どちらかを取得できれば住宅ローン控除が使えるので、以下のパターンが考えられます。

  1. 耐震基準適合証明書OK、付保証明書OK
  2. 耐震基準適合証明書OK、付保証明書NG
  3. 耐震基準適合証明書NG、付保証明書OK
  4. 耐震基準適合証明書NG、付保証明書OK

ここでも結論から言うと、3.4はあり得ないです。付保証明書発行要件の中に、耐震基準適合証明書発行要件が包含されているからです。そもそも、耐震基準適合証明書が発行できない建物なら、付保証明書も発行要件を満たなさいということです。

つまり、耐震基準適合証明書が発行できるのかどうかを確認できればよいということです。

耐震基準適合証明書の発行

最終的な判断は建築士へ依頼することになりますが、簡単な判断ポイントをお伝えます。

  1. 新耐震基準かどうか
  2. 耐震診断を実施しているかどうか
  3. 耐震改修工事を実施しているかどうか

新耐震基準かどうか

新耐震基準とは昭和56年6月1日以降に建築確認を受けて建築された建物のことです。広告表示の建築年月日は登記簿上の年月日です。建築確認を受けた日は登記簿上の年月日より古いため、広告表示で昭和56年6月築の物件は新耐震基準ではありません。

ここでも、広告表示で昭和何年何月築であれば新耐震基準なの?と聞きたくなります。

残念ながらここも一律で昭和○年○月であれば新耐震基準である、ということは言えません。

建築確認の承認を得てから工事を始めて、完成したら登記をする。マンションの規模によって工期が異なるため建築確認から登記されるまでの期間はまちまちです。

広告表示で微妙な建築年(昭和57年7月とか)の場合は、勇気を出して不動産業者に問い合わせるしかありません。

なお、不動産業者は確建築確認申請書・台帳記載事項証明書など役所が発行する書類でマンションの建築確認申請日を確認します。誰でも役所に行けば取得できる書類ですが、平日にわざわざ時間とお金をかけて行くより、勇気を出して不動産業者に確認するほうが効率的です。

新耐震基準であれば耐震基準適合証明書を発行できる、と判断していいでしょう。

耐震診断を実施しているかどうか・耐震改修工事を実施しているかどうか

新耐震基準より古い建物を旧耐震と呼んでいます。

旧耐震のマンションは耐震基準適合証明書が取得できないのでしょうか?

旧耐震でも、耐震性能が新耐震基準と同等と認められれば耐震基準適合証明書が取得できます。そのためには、耐震診断を実施して耐震性能を算出していることが必要です。また、耐震性能が新耐震基準を満たさないという結果でも、その後に耐震改修工事を実施して新耐震基準を満たせば、耐震基準適合証明書の取得ができます。

つまり、旧耐震のマンションで耐震基準適合証明書が取得できるパターンは

  1. 耐震診断OK
  2. 耐震診断NG 耐震改修工事OK

なお、1.の、旧耐震マンションが耐震診断を実施して耐震性能が新耐震基準と同等であると結果が出たケースを、私は見たことがありません。心づもりとして、耐震診断を実施しているが耐震工事を実施していない場合は不可と覚悟しましょう。(そもそも耐震診断をしてない建物は不可です。)

では、2.の場合はどうでしょうか?耐震工事の内容によっては不可というケースがあります。

耐震改修工事を実施して新耐震基準を満たしたのかどうか一番分かりやすい判別方法は、エントランス付近に新耐震基準適合マークが貼ってあるかどうかです。これがあれば耐震基準適合証明書取得可能と判断していいでしょう。

それでは、これらの掲示がない場合は耐震基準適合証明書発行不可となってしまうのでしょうか。

耐震改修工事を実施して、新耐震基準を満たすと確認できてはじめて新耐震基準適合となるわけです。新耐震基準を満たすことを確認するためには、耐震改修工事後に耐震診断を実施します。つまり、耐震改修工事後に耐震診断を実施していない場合は、新耐震基準を満たしているかどうか分かりません。

耐震改修工事の一般的な流れは

  1. 耐震診断
  2. 工事計画
  3. 補強工事
  4. 耐震診断

となります。

財政不足、住民の合意形成が得られないなど、何らかの理由で新耐震基準を満たす耐震改修工事を実施することができず、最低限の工事、例えば1階ピロティに補強壁を作る工事のみ実施しているマンションは結構多いです。

そうなると、耐震改修工事後に耐震診断をしても新耐震基準は満たしませんので耐震診断は実施しません。(最後の耐震診断もお金がかかるから)

一方で、新耐震基準を満たす耐震改修工事を行っているにもかかわらず、最後の耐震診断をしていないために新耐震基準適合マークを掲示できていない建物もあります。

私が建築士に聞いた話では、耐震診断を実施して新耐震基準を満たしたことを証明するのは自治体からの補助金がもらえることが大きな理由のようです。耐震改修工事時期等によっては補助金の対象にならないこともあったようで、それなのにわざわざお金を払って耐震改修工事完了後に耐震診断を実施することはしないのでしょう。

このケースでは、耐震基準適合証明書を取得できる可能性があります。

最初の耐震診断で、耐震改修工事計画が記載されており、かつ、その耐震改修工事を行うことでどのように数値(IS値)が良くなるのかも記載されている場合です。

予定通り耐震改修工事が実施されていれば、当初診断結果通りの数値になっているはずなので、新耐震基準を満たしていると判断できるようです。

ただ、このあたりは建築士の判断によって左右されるようです。

少し長くなりましたが2.のケースで現地を確認してステッカーが貼ってなくても耐震基準適合証明書を取得できる可能性はあります。その判断のためには耐震診断・耐震改修工事の資料を取得する事、現地をみて耐震改修工事が計画通り実施されているか確認することです。このケースは不動産業者でも見落としていることが多いので、自分自身でも確認することがいいでしょう。

耐震基準適合証明書発行のまとめ

  • 新耐震基準であればOK
  • 旧耐震でエントランス付近にステッカー貼ってあればOK
  • 旧耐震で耐震診断を未実施ならNG
  • 旧耐震で耐震診断を実施しているが耐震改修工事が未実施はNGの可能性大
  • 旧耐震で耐震改修工事実施している場合は個別判断

フラット35適合証明書

住宅金融支援機構が提供する最長35年の全期間固定金利の住宅ローンです。35年間固定金利というメリットを強調しておりますが、他の金融機関と比べてもいくつか特徴があります。

  • 審査金利=借入金利
  • 現在の住宅ローンがあっても売却予定であれば返済比率に含まれない
  • 法人代表者でも決算書が不要

他にも特徴はたくんさんありますが、自営業者(個人事業主)、法人代表者など一般の金融機関の住宅ローンでは難しいと言われている属性に強いという感じです。

フラット35を使うためには、住宅金融支援機構が定める技術基準に適合していることを示す「適合証明書」を取得しなくてはなりません。

適合証明書の発行は専門家に依頼することになりますが、発行できるかどうかの基本的な要件をおさえておきましょう。

適合証明書発行可否の判断基準

繰り返しになりますが、細かい要件があるため最終的には専門家へ依頼することとなります。ここでは最低限のチェック項目をお伝えします。

  1. 長期修繕計画書(20年以上)がある
  2. 管理規約がある
  3. 新耐震基準である

古いマンションだと長期修繕計画書が無いケースも多々あります。なければNG確定です。あっても15年とか10年の計画書ではNGです。また、管理規約が無いマンションもNGです。

そして、新耐震基準です。

もし旧耐震だったらNG?

そんなことはありません。旧耐震マンションの場合には機構の定める基準を満たしていることが確認できれば適合証明書が発行できます。

機構の定める基準を満たしているかどうかを確認するため、新築時の設計図書等が必要になります。

※これらは一般的に管理室又は管理組合の理事長が保管しているため簡単には閲覧できません。皆様のような買主候補が行っても閲覧できるとは限りませんので、ここは不動産業者さんにお願いする方が確実です。

つまり、旧耐震マンションの場合は書類を揃えて専門家に確認しないと適合証明書の発行可否は判断できません。

ちなみに、インターネットで「適合証明書発行」と調べると多くの会社がヒットします。発行可否の相談は無料で受けてくれるところが多いので書類さえあれば何とかなります。

適合証明書発行のまとめ

  • 長期修繕計画書(20年以上)が無ければNG
  • 管理規約が無ければNG
  • 新耐震基準であればOK。旧耐震なら書類を揃えて専門家へ相談。

住宅ローン控除の耐震基準適合証明書とフラット35の適合証明書は全くの別物!

不動産業者の作成する販売図面などに、「適合証明書取得可」と書かれていることがあります。フラット35の適合証明書なのか、住宅ローン控除の耐震基準適合証明書なのか混在しているケースがあります。

先程述べたように、各証明書の取得要件は全く異なります。どちらが優れているということもありません。証明書の使用用途が異なるだけです。

証明書が取得できると思って契約を進めていたのに取得できないなんて話が違う!ということにならないため、話を鵜呑みにせずにご自身で確認されることをおすすめします。

自己責任の時代です。