相続分の譲渡は特別受益に当たる! 特別受益とは?

相続分の譲渡は民法903条1項の贈与に該当する

最高裁判決(平成30年10月19日 第二小法廷判決)によれば、

「共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡した者の相続において、民法903条1項に規定する贈与に当たる。」(最高裁判例より)

とされました。

一般的に、民法903条1項により贈与を特別受益と言われています。

事実の概要
  1. 夫婦(妻A、夫B)とその子(C、X、Y)及び養子(D)において、平成20年12月にBが死亡した。
  2. B死亡による遺産分割調停において、A及びDはその相続分をYに譲渡した。
  3. 平成22年12月にC、X、Yの間で遺産分割調停が成立した。
  4. 平成26年7月にAが死亡、その法定相続人はC、X、Y、Dである。(Aは全財産をYに相続させる旨の公正証書遺言を残している)
  5. Aの相続についてXはYに対して、遺留分減殺請求を行った。

Xの主張は、上記2.のB死亡時A→Yへの相続分譲渡が民法903条1項の贈与に該当するため(Yが特別受益者)、Aを被相続人とする相続時には、Yが贈与を受けた価額を加算したものが相続財産となり、それをもとに算出したXの遺留分を侵害しているため遺留分減殺請求を行ったものである。

原審の判断

原審では最高裁判決とは異なり、相続分の譲渡は遺留分算定の基礎となる財産額に参入すべき贈与には当たらないとされていた。

最高裁判決

冒頭の通り、相続分の譲渡は903条1項に規定する贈与に該当することとされた。

 

なお、遺留分算定の基礎となる価額に含まれる贈与は、相続開始前1年間にされたものとされていますが(民法1030条)、平成10年3月24日最高裁判決では

「民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、同法1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となる。」(最高裁判決より)

特別受益とは

相続分の贈与も特別受益に該当する、とされたけれども、

そもそも特別受益とは何なの?

それがあると相続分にどのような影響があるの?

と思われる方のために、今回は特別受益について解説します。

相続財産の算定

被相続人が死亡時に有していた財産が相続財産となります。しかし、生前に共同相続人の中に贈与を受けている者がいる場合、その贈与を考慮せずに相続財産を分割するとすると不公平な結果になってしまいます。

例えば、親の死亡により子供3人(長男、長女、次男)が相続人となった相続において、生前自宅の建築資金として1,000万円の贈与を受けていた長男、結婚費用として500万の贈与を受けていた長女の事情を考慮せず、遺産3,000万を子供3人が等分に相続するとしてしまうと、生前何も贈与を受けていない次男にとって不公平ではないでしょうか。

そこで民法では上記のような生前の贈与も相続財産に含めることとしています(民法903条)。

 

加算される贈与

婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本としての生前贈与が対象になります。

相続財産の前渡しとみられる贈与であるかどうかであることや、被相続人の生前の資力、社会的地位、生活状況によって判断されることもあるため一概には言えませんが、一般的には下記の通りです。

  • 婚姻、養子縁組のための贈与では、持参金・支度金は特別受益に該当するが、結納金・挙式費用は該当しない。
  • 居住用の不動産の贈与、その取得のための資金贈与、営業資金の贈与、生計の基礎として役立つような財産上の給付は特別受益になる。遊興費支払いのための金銭の贈与は該当しないと思われます。
  • 債務の肩代わりをして求償権を放棄した場合は特別受益に該当する。
  • 生命保険金は相続人固有の財産となるため特別受益に該当しないが、遺産全体からみて著しく不公平となる場合には特別受益に該当する。
  • 継続的な金銭援助は特別受益になる。
  • 不動産の無償使用(親の土地に建物を立てる場合など)は特別受益になる。
特別受益者の相続分

それでは、特別受益に該当する贈与を受けた者(特別受益者)の相続分はどうなるのでしょうか。

先程の相続人3人の例で説明すると

相続財産の算定は

  • 遺産3,000万
  • 長男がもらった自宅建築費1,000万
  • 長女がもらった婚姻費用500万

の合計、4,500万となります。

 

そして、各人の相続分は3分の1となるため

  • 長男の相続分は4,500×1/3=1,500万 ただし、すでに1,000万の贈与を受けているため500万
  • 長女の相続分も長男同様に1,500万 ただし、すでに500万の贈与を受けているため1,000万
  • 次男の相続分も同様に1,500万 生前の贈与は受けていないため1,500万

 

つまり、遺産として残っている3,000万は

  • 長男500万
  • 長女1,000万
  • 次男1,500万

に分割して相続することになります。

これなら、生前に贈与を受けた長男・長女と贈与を受けていない次男も公平な遺産分割になりますよね。

 

特別受益の持戻し免除

特別受益者の相続分算定方法や、特別受益に該当する生前贈与は民法903条1項、2項に規定されています。

一方、3項では被相続人の意思表示により上記と異なる取り決めをしても良い、とされております。これを特別受益の持戻し免除と言われております。生前贈与や遺贈を、特定の相続人の特別な取り分として与えようとした被相続人の意思を尊重しようということです。

※持戻し免除は遺留分を侵害している場合には減殺請求の対象になります。

これも先程の相続人3人の例で説明すると、もし親が遺言で「生前の長男、長女の贈与については相続分算定に含めないものとする」とした場合、特別受益は無かったものとして相続分を算出することになります。

そのため、遺産3,000万を3等分することとなり、子供はそれぞれ1,000万を相続することになります。

次男から見れば不公平に思うでしょうが、遺産の処分は被相続人が自由にできることを考えれば相続人より被相続人の意思を優先することは当然といえます。

 

おわりに

相続財産とは現に有する財産だけが対象になるわけではない、というのがポイントです。

どのような生前贈与が特別受益に該当するかどうかは判断が難しいケースもありますが、それも含めて考えた上で遺言書で相続財産の分割を明示することが、相続人間で無用な争いを起こさないための予防になるのではないでしょうか。